気が付いてみれば、2017年2月にユゴニオ弾性限界の覚え書きを投稿してから早4年、
ベルヌーイの式とエロージョンを伴う侵徹の覚え書き、ユゴニオ弾性限界を超えた後の応力ひずみ線図の覚え書き、衝撃インピーダンスってなんだ?な話、お手軽に高速度侵徹を解析したい話、ちょっと頑張ってL/D効果も含めた侵徹深さの評価をしたい話、APFSDSのRHA侵徹深さを簡単に見積もりたい話、AWモデルにおけるDynamic cavitation analysisの解析解、高速度侵徹のエネルギー効率、高速度侵徹の侵徹効率と高速度侵徹について多くの記事を書いてきました。(実は高速度侵徹はZukasのHigh velocity impact dynamicsに由来し、低速度侵徹はTerminal ballisticsの4章のEroding penetratorを高速度侵徹と訳した時に、どうRigid penetratorを訳すかと考えたときに生まれたオレオレ訳に過ぎないものです。)
最初のモチベーションは、ユゴニオ弾性限界に代表される特殊な変形挙動についての興味でしたが、多くの勉強をすることが出来ました。また、AWモデルという現代高速度侵徹モデルに触れたのちには、Cavity expansion analysisに感銘を受け、侵徹体の形状依存性を考慮してCavity expansion analysisを解くForrestalの式を追うことで、低速度侵徹の代表的なモデルにも触れることが出来ました。その過程は侵徹中に標的が作る抵抗 1 -静的Cavity expansion analysis-、侵徹中に標的が作る抵抗 2 -動的Cavity expansion analysis-、侵徹体の形状から侵徹体の重量を求める、低速度侵徹の侵徹深さの求め方 - Forrestalの式 -、Jacob de Marreの式と(低速度)徹甲弾の一般化した侵徹の解釈、低速度侵徹のエネルギー効率に示した通りです。
エネルギー保存の観点から見て、APFSDSのような高速度侵徹と、APのような低速度侵徹はまったく異なる振る舞いをします。低速度侵徹では常にエネルギーは保存されますが、高速度侵徹ではそうではありません。それは高速度侵徹のエネルギー効率で触れたように、「高速度侵徹では侵徹体が消耗するため」です。
さて、今回はこの「高速度侵徹では侵徹体が消耗する」ことと、「標的の抵抗はCavity expansion analysisで求められる」ことを出発点として高速度侵徹について考え、低速度侵徹と高速度侵徹の間の差異、ひいては、多くのミリタリー趣味者が心惹かれたに違いない、APFSDSのメカニズムがAPと決定的に異なる点について考えてみます。
結論
APFSDSのような高速度侵徹とAPのような低速度侵徹の間の本質的な差異とは、ユゴニオ弾性限界、衝撃インピーダンスや「流体としてふるまい(塑性流動)、相互侵食を起こして機械的強度を無視し、装甲を貫徹する。」といったことではなく、侵徹体が消耗するかどうかに起因します。
準備
とはいえ、抜き身では大変なので、高速度侵徹の特徴をここで一つ示してしまいましょう。
以下の図に、AWモデルで計算された、L=700mm, D=20mmの降伏強度0.5GPaのタングステン(WHA)製侵徹体を2000 m/sで降伏強度1GPaの鋼製(C>0.02)の標的に衝突させた際の侵徹体の先端速度と後端速度を示します。見て取れるように衝突直後から侵徹先端はある速度まで急速に減速し、その後は侵徹の大部分をその速度で行うことがわかります。
ここで、侵徹体先端速度は以下の図の通り侵徹体が標的中を突き進む速度であり、侵徹深さを定める上でカギとなる値です。
仮定
衝突直後
と置いておきます.
侵徹中期
ここで非常に注目されるべきことは、現代の高速度侵徹モデルであるAWモデルと、Forrestalの式に簡潔な仮定を加えて修正した高速度侵徹モデルが非常な一致を示すことです。
このことは何を意味しているのでしょうか?
これは、APFSDSのような高速度侵徹とAPのような低速度侵徹の間の本質的な差異とは、ユゴニオ弾性限界、衝撃インピーダンスや「流体としてふるまい(塑性流動)、相互侵食を起こして機械的強度を無視し、装甲を貫徹する。」といったことではなく、侵徹体が消耗するかどうかに起因することを意味しています。
侵徹体が消耗する挙動にこれらの要素が関わってきたり、斜め衝突での過渡的な挙動ではいろいろ難しい話があると思うのでいろいろあると思うんですが、まあ初手で出しても、よくわからないまま進むような気がしますね。
ちなみに、高速度侵徹のエネルギー効率、高速度侵徹の侵徹効率、低速度侵徹のエネルギー効率と同じ議論から、侵徹中に標的の強度が影響する割合$f_{R_t}$を、
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