2017年3月1日水曜日

ユゴニオ弾性限界を超えた後の応力ひずみ線図の覚え書き

最近はもっぱらフックの法則で遊んでいます。
ところで、前回の記事の図4で、500m/sでWをAlにぶつけてもユゴニオ弾性限界を優に超えていると書きましたが、この圧力時間線図は平板衝突実験により得られています。平板衝突は一軸ひずみを維持しやすい状況ですが、それと実際の高L/D比の侵徹を比較するのは変かもしれませんね。

今回の目標

今回の目標は降伏応力Yの完全弾塑性体(降伏したあとは一定の応力で変形し続ける)の物質の一軸ひずみにおける応力ひずみ線図をフックの法則から求め、単純に引っ張ったときの応力ひずみ線図との差を見ることにあります。具体的には以下の図。ここからわかることは下の方の結論にざっとまとめています。
図 降伏応力Yの完全弾塑性の一軸応力、一軸ひずみでの応力ひずみ線図

以下式展開

前回の記事でユゴニオ弾性限界(HEL)がフックの法則から
\[ \mathrm{HEL} = \frac{1-\nu}{1-2\nu}Y \]
と簡単に表されることがわかりましたが、降伏応力がYの完全弾塑性体の一軸ひずみ変形での応力ひずみ線図はどんなもんなんでしょうか。

とりあえず弾性領域ではフックの法則を使えばいいので、先程の式を引っ張ってきて
\[ \sigma_{11} = \frac{ \nu E }{( 1 + \nu )( 1- 2 \nu ) }\varepsilon_{11}+ \frac{E}{1+ \nu } \varepsilon_{11}= \frac{ (1-\nu) E }{( 1 + \nu )( 1- 2 \nu ) }\varepsilon_{11} \]を元に進めましょう。中辺第一項の分子がわかりにくい形になっているので
\[ \sigma_{11} = \frac{ a E }{ 1- 2 \nu  }\varepsilon_{11}+ \frac{bE}{1+ \nu } \varepsilon_{11} \]
の形で整理してみましょう。とりあえず通分して分子を見てみると
\[ (1+\nu) a + (1-2\nu)b = 1-\nu \]
の恒等式を得るので、$a+b=1$、$a-2b=-1$を解けばいいでしょう。すると、$a = \frac{1}{3}, b= \frac{2}{3}$を得ます。これを使って整理してやると、
\[ \sigma_{11} = \frac{  E }{ 3(1- 2 \nu)  }\varepsilon_{11}+ \frac{2E}{3(1+ \nu) } \varepsilon_{11} \]
となります。Wikipediaの体積弾性率剛性率を見てやると、各項は更に整理できて
\[ \sigma_{11} =  \biggl(K +\frac{4}{3}G \biggr)\varepsilon_{11} \]
とスッキリした形で得られます。
 この式から一軸ひずみ変形での弾性定数は一軸応力の式とは異なり、弾性率がヤング率$E$ではなくなっていますが、更に静水圧の弾性定数の$K$だけでなくせん断での弾性定数$G$も加えられています。鉄の場合、$K$が170GPa、$G$が72GPa程度なので、一軸ひずみ変形での弾性定数は270GPa程度となり、一軸応力(普通の圧縮)の弾性定数であるヤング率$E$の200GPaよりも大きくなり、より圧縮されにくいことがわかります。

それでは、降伏した後はどうでしょうか。完全弾塑性体ですので、降伏した後は塑性変形に必要な応力は常にY(前半のトレスカの条件)です。また、それとは別に塑性変形に寄与しない静水圧応力が圧縮に伴い増加します。まず一度塑性変形に寄与しない静水圧応力を求めてみます。これは簡単で、掛かっている全ての主応力の平均であり、
\[P = \frac{\sigma_{11}+\sigma_{22}+\sigma_{33}}{3} = \frac{\sigma_{11}+2\sigma_{22}}{3} \]
ですが、
\[ \sigma_{11} = \frac{ \nu E }{( 1 + \nu )( 1- 2 \nu ) }(\varepsilon_{11})+ \frac{E}{1+ \nu } \varepsilon_{11} \]
\[\sigma_{22} = \frac{ \nu E }{(1+\nu) (1- 2\nu)}(\varepsilon_{11}) \]
なので素直に足し合わせれば
\[P=\frac{ \frac{3\nu E}{(1+\nu)(1-2\nu)} + \frac{E}{1+\nu }}{3} = \frac{E}{3(1-2\nu)} = K\varepsilon_{11}  \]
が得られます。では次に見やすい形で降伏条件を求めるために$\sigma_{22}$についても$\sigma_{11}$と同じ表式にしてみます。
\[\sigma_{22} = \frac{ \nu E }{(1+\nu) (1- 2\nu)}(\varepsilon_{11}) =\frac{aE}{1-2\nu } + \frac{bE}{1+\nu} \]
の形において同じように解くと、$a=\frac{1}{3}, b=\frac{-1}{3}$が得られ、
\[\sigma_{22}  = \biggl(K-\frac{2}{3}G \biggr) \varepsilon_{11} \]
を得ます。これをトレスカの式( $ \sigma_{11} - \sigma_{22} = Y $ )に突っ込むと、
\[ \biggl(K+\frac{4}{3}G\biggr)\varepsilon_{11} -\biggl(K-\frac{2}{3}G\biggr)\varepsilon_{11} = 2G\varepsilon_{11} = Y \]
が得られます。この式から2つのことがわかります。一つは、降伏に寄与しないとした静水圧応力はきれいに消え、せん断成分のみで降伏が決定すること。もう一つは、ユゴニオ弾性限界に達するひずみは$\frac{Y}{2G}$であることです。
これらのことから、一軸ひずみ変形では$\varepsilon_{11} = \frac{Y}{2G}$で一軸ひずみの降伏応力HELに到達することがわかります。また、完全弾塑性体ですから降伏に達したあとは偏差応力は常にトレスカの式を満たす応力に保たれるので、ユゴニオ弾性限界に達するひずみが$\frac{Y}{2G}$であることを以下の式第二項に代入することで
\[ \sigma_{11} =  \biggl(K +\frac{4}{3}G \biggr)\varepsilon_{11}= K\varepsilon_{11}+\frac{2}{3}Y \]
として、降伏後の一軸ひずみ領域での勾配が求まります。


結論

とまぁ、完全弾塑性体の一軸ひずみ状態での応力ひずみ線図をごそごそと求めてきたわけですが、具体的にはどんな応力ひずみ線図になるんでしょうか?というわけで以上をまとめたものを以下の図に示します。青色の線は完全弾塑性体を一軸引張りしたときの応力ひずみ線図で、応力が降伏応力に達したあとは一定の応力を保ち続けています。一方で、赤色の線は一軸ひずみ状態で青色の線の物質を圧縮したときの応力ひずみ線図を示しています。図のようにユゴニオ弾性限界に達した後も応力は体積弾性率に比例して増加していることがわかります。高強度鋼のHELは大体3,4GPa程度ですが、HELに達するひずみY/2Gは概ね2,3%のオーダーです。仮に高速度衝突により10%もひずめばHELを遥かに超える20GPa近い応力がかかることになるので、その場合事実上材料強度の影響は無視でき、材料の静水圧的特性に支配されることがわかります。

図 降伏応力Yの完全弾塑性の一軸応力、一軸ひずみでの応力ひずみ線図

ところで、上の図では体積弾性率はひずみによらず一定としていますが、実際には体積弾性率はひずみに強く依存し、圧縮されればされるほど体積弾性率は高くなるので、一軸ひずみでの応力ひずみ線図はユゴニオ弾性限界の記事で示したような下に凸の図になることがわかり、変形に伴い衝撃波が発生することがわかります。

図 一軸ひずみでの応力ひずみ線図の模式図

ただ、高速度衝突では断熱圧縮的になりますので、もう少し圧力項と体積弾性率の圧力依存性に補正を加える必要がありますが、今回は静的な領域で話を終えましょう。

駆け足になりましたが以上です。
正直、この衝撃波の議論と侵徹の議論が中々ただちには繋がらなくて難しいです。