2021年5月5日水曜日

Jacob de Marreの式と(低速度)徹甲弾の一般化した侵徹の解釈

 GWがまさかブログ連投ウィークになるとは誰が予想したでしょうか。

いつかまとめなきゃなぁと思っていたんですが、sympyを使うと割と簡単にlatexの形に出力できることに気が付いたために今回の量産が出来ています。ありがとう、sympyとMathJax。

Cavity expansion analysisを使った解析は現代の侵徹理論では滅茶苦茶重要なので、名前だけでも憶えてもらえると嬉しいです。

今回の結論

Jacob de Marreの式では侵徹深さが衝突速度$V$に対して$V^{1.4}$とかになるのはなぜ?→そもそもそういう形をしていないから

本文

さて、このブログを読んでいらっしゃる方はJacob de Marreの式はご存じかと思います。

Jacob de Marreの式は侵徹深さの実験的な評価式で、材質によっていろいろな定式があるかと思いますが、滅茶苦茶おおざっぱに言えば侵徹深さ$P$と、衝突速度$V_0$の間に、

$$ P \propto V_0^n$$

の関係があるという式で、$n$はだいたい1.4~1.5の値を取るという理解です。侵徹体寸法や質量は今回は見ないことにします。

$n$が1.4~1.5に比例するというのは奇妙な話です。例えば、我々がプリミティブに侵徹深さを求めようとして、侵徹体の運動エネルギーと、装甲が消費するエネルギーの間に成り立つ関係を立ててみれば、

$$ \frac{1}{2}mV_0^2 = YSP$$

$$P \propto V^2$$

となって、指数は2になるからです。

この差をどうとらえるかは人によって異なるかと思いますが、個人的には大きな差だと考えています。なぜなら、衝突速度が500m/sと1000m/sの場合を比較して考えようとすると、$n$が2と1.4では、1000m/sの時の侵徹深さは500m/sの時の侵徹深さの4倍、2.6倍となり、大きな乖離が生じるためです。

$n$が2でないことの理由として、

  1. 侵徹はエネルギー保存則を守っていない
  2. 装甲の強度以外の別の抵抗が存在する
が考えられますが、1はありえないので、2.について考えるのが妥当でしょう。

今、我々はすでに、標的が作る抵抗と標的の強度とある時刻の侵徹速度について、

$$ \sigma_{z} = \frac{3NV_{z}^{2} \rho_{t} }{2} + \frac{2Y}{3}  \left(\log{\left(\frac{2 E}{3 Y} \right)} + 1\right)$$

という関係があることがわかっています。そして、この抵抗と侵徹深さ$P$の間には、

$$P = \rho_p \frac{L+ka}{3N\rho_t}\ln{\left(1+ \frac{3N\rho_t}{2\sigma_s}V_0^2 \right)} $$

というForrestalの式という関係があることがすでに分かっています。

今一度、Jacob de Marreの式とForrestalの式を比較してみましょう。

$$ P \propto V_0^n$$

$$P = \rho_p \frac{L+ka}{3N\rho_t}\ln{\left(1+ \frac{3N\rho_t}{2\sigma_s}V_0^2 \right)} $$

この二つの式が似ていると感じる人は少ないのではないかと思いますが、実際この式の二つをプロットすると、その形は大きく異なっています。以下に、Forrestalの式、Jacob de Marre、エネルギー保存則の結果を示します。ここで、Jacob de Marreの式、エネルギー保存則の式はForrestalの式をフィッティングすることでプロットしています。


速度が低い領域では、Jacob de Marreの式、エネルギー保存則の式はいずれもForrestalの式に追従していますが、速度が上昇するにつれてForrestalの式の傾きは小さくなり、両者から乖離していることが見て取れます。しかし、Jacob de Marreの式はその指数が小さいためにより高速度域まで追従していることがわかります。

Forrestalの式がこのように高速度域で侵徹深さが増加しなくなる理由は、

$$ \sigma_{z} = \frac{3NV_{z}^{2} \rho_{t} }{2} + \frac{2Y}{3}  \left(\log{\left(\frac{2 E}{3 Y} \right)} + 1\right)$$

の第1項に起因しています。衝突速度が低いとき、第1項は無視できるほど小さく、その侵徹深さは

$$P = \rho_p \frac{L+ka}{2\sigma_s}V_z^2 $$

に漸近します。一方、衝突速度が極めて高いとき、

$$ \ln{\left(1+ \frac{3N\rho_t}{2\sigma_s}V_0^2 \right)} \approx \ln{\left( \frac{3N\rho_t}{2\sigma_s}V_0^2 \right)} $$

となって、侵徹深さは衝突速度$V_0$の$\ln{V_0^2}$に比例します。そこで、Forrestalの式の高速度域について$\ln{V_0^2}$にフィッティングした結果を以下に示します。

このことから、低速度侵徹では標的強度が支配的な領域と、衝突速度の2乗に比例する慣性項ともいえる項が支配的な領域の二つに分かれており、高速度になるとともに慣性項の影響が大きくなり、侵徹深さの衝突速度依存性は鈍くなることがわかります。
よって、Jacob de Marreの式のように、$V$の指数は2よりも小さくなることがわかります。

ということで、Jacob de Marreの式の速度依存性が$V^2$でない理由は、そもそも低速度侵徹の速度依存性は$V^n$の形をしていないから、でした。
また、CRH、標的強度$\sigma_s$、標的密度$\rho_t$が変わると、$n$はどんどんと変わります。まあJacob de Marreの式の指数はざっくりそのくらい、と考えるのがいいのではないでしょうか。

そうするとJacob de Marreの式でのエネルギー保存則ってどうなっているの?と思うのが人情ですが、それは機会があればまた。(ちゃんと保存されています。)

0 件のコメント:

コメントを投稿