2016年10月6日木曜日

セルフシャープニングの覚え書き

お世話になってます。以前ツイッターのほうで装甲材と砲身材の違いについてかくかーとか行ってたんですけど、おもったより需要が機械的性質よりだったのでどういうのがいいのか考え中です。

今回はセルフシャープニングについて調べてたら面白かったので,一度まとめる意味でメモ書き程度の内容です。

セルフシャープニングは、劣化ウラン(DU)の高速度衝突で生じるものが特に有名です。セルフシャープニングは高速度で起こるせん断によって形状が先鋭化する現象について名づけられたものですが、材料の変形挙動としては、Adiabatic shear、 断熱せん断と呼ばれるものに基づいて起こっているそうです。

断熱せん断の特徴はせん断荷重を受ける部位のみが集中的にせん断変形を起こしそれ以外の部位はほとんど変形を起こさないところにあります。断熱せん断という意味は、高速度衝撃では極めて短時間のうちに現象が終了するので塑性変形により生じる加工熱はその外側にほとんど伝熱せず、断熱過程で生じるためのようです。断熱せん断過程ではこのせん断部位に断熱的に起こる発熱が強く関わっているので、今回はそれを見ながら考えて見たいと思います。

まず、塑性変形が局所的に生じる現象について外観したいと思います。断熱せん断に限らなければ、塑性変形が局所的に生じる物質は身近に存在しており、軟鋼がそれです。そこで、軟鋼の応力ひずみ線図を以下(Wikipedia)に示します。応力が上降伏点(PeH)を超えて降伏点減少が起きると試験片にはリューダース帯を生じますが、このリューダース帯が試験片を横断するまで塑性変形はリューダース帯境界にのみ集中して生じます。これは未降伏な部分の変形に要する応力が上降伏点だけ必要なのに対して、降伏済み(リューダース帯境界部)の変形には下降伏点(PeL)だけでよいため、自然に理解される事柄だと思います。
軟鋼の応力ひずみ線図

変形の局所化という意味では、応力ひずみ線図の最大引張強度(Pm)を超えた後の変形も同様に局所化しています。これについて少し考えてみます。一軸引張りを受ける試験片が降伏すると加工硬化(変形と共に強度が上昇)します。一方で、縦に伸びた分だけ試験片面積は減少するので、全体が均一に変形するためには、そのひずみにおいて少し伸びたときの応力の増分と掛かっている応力とが釣り合うことが不可欠です。この関係が成り立たなくなった時、試験片のある箇所に変形が集中することになり、その部分のみがどんどんと伸び、断面は減少していきます。この場合試験片はネッキングを生じ、ネッキング部に変形が集中します。

何にせよ、ひずみが律速する過程においては加工に伴う硬化が付加される応力よりも下回った時、変形の局所化が生じることになります。 

高速度変形では、この応力と加工硬化との釣り合いの関係に、塑性変形により生じる発熱が加工部に蓄積するという要因が加わります。塑性変形が生じると、それに伴って生じる熱量によりせん断変形部の温度は上昇します。高速度変形では、生じた熱が拡散する伝熱速度に比べてひずみの蓄積のほうが圧倒的に高いため、熱は外部に逃げることなく、断熱的に進行します。よく知られているように、ほとんどの金属材料は温度が上がると軟化するため、塑性変形とともに材料は軟化することになります。一方で、ひずみの進行とともに加工硬化も生じるので、このような変形下で軟化が生じるかは両者の兼ね合いとなります。これらの影響を与える式をまとめて示すと、以下の式になります。


先程の議論から、塑性変形の局所化は最大応力を示すひずみ量(上式=0になるひずみ量)で生じます。この状況が達成された時、材料は断熱せん断によって変形します(という理解です)というのがざくっとしたAdiabatic shearの解釈になるのかな、と思います。右辺第一項は加工硬化、第二項は応力のひずみ速度依存性、第三項は応力の温度依存性を示しているので、この3つを調べれば判定できるということに一応はなります(Rechtは別のを提案してますが、まぁ…)
これを前提に劣化ウラン弾とタングステンの動的強度と温度依存性を調べて比較してみたんですが意外に系統立てて説明できなくてちょっと困ってます。なにかあるんでしょうね。ウランは高温で軟質相に相変態すると説明しているのがあるんですが、1 μs以下のスパンで相変態するのかな?と思ってちょっと不思議に思っています。拡散による変態なのに変態速度が鉄のマルテンサイトが成長する速度よりも早くなってしまうような気がします。
一方で、変形が必ず局在化する金属ガラスという変わった材料もあり、これは少しだけ調べられている形跡があります。また、セルフシャープニングを起こさないと言われるタングステンでも、製造プロセスによってはセルフシャープニングを生じるようになると言われています。このあたりの議論は基本的にはAdiabatic shearに基づいて議論されているので、この辺を踏まえていると読みやすくなるのかな、と思います。


ただ、セルフシャープニングが効果的なのは弾着時の速度が1000~1500 m/sの領域で、それ以降ではタングステンとの差が縮まってくるようなので(例えば、High Velocity Performance of a Uranium Alloy Long Rod Penetrator, Fig. 6, 7)、砲弾の火薬の性能が上がってくるとあんまり重要じゃなくなってくるのかもしれませんね。現象としては面白いですががが。

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