2016年10月22日土曜日

フランスの原発の鋼材が炭素偏析で強度不足の可能性な話。

お世話になっています。鹿部です。
8月末から9月初めに掛けて
仏原発の原子炉鋼材、強度不足の懸念 国内の調査指示へ:朝日新聞デジタル
強度不足疑いのメーカー製鋼材、8原発13基で使用  :日本経済新聞 
のような報道がありました。

この初期の一連の流れは、@hebotantoさんが@Ton_beriさんなどのツイートをまとめられた@2016/09/05 鍛造と炭素偏折と(メモ) - Togetterまとめ がよくまとめられているように思います。
この報道の初期にはフランスのクルゾフォルジュ社(クルゾ社)が製造した一部の部材にこのような問題が見られ、国内の一部メーカーも同様な手法で製造を行っているため、同様の問題が生じている可能性があるため調査を行うという話でした。

その後、今週に入って原子力規制委員会の委員会で再びこの件が議題に取り上げられたことで、以下のような報道がなされました。
仏原発5基の検査前倒し 強度不足の疑い  :日本経済新聞 
仏原発4基で強度懸念、日本製部品が原因 原子力規制委:朝日新聞デジタル 
玄海原発などの圧力容器 強度不足「可能性低い」|佐賀新聞LiVE 
朝日新聞は大きく出たな、という見出しですが、実際のところはどうなんでしょうか?

これについては原子力規制委員会から問題の日本鋳鍛鋼自身がデータを示しているのでそれを参考にするのが良いように思います。
第37回原子力規制委員会 資料2 仏国原子力安全局で確認された原子炉容器等における炭素偏析の可能性に係る調査の状況等について

一度、問題の整理をします。
今回問題になっているのは、フランス国内の原発についてクルゾフォルジュ社(クルゾ社)及び日本鋳鍛鋼が製造した蒸気発生器の下鏡(下図青い部分)と呼ばれる部材です*。

このような大型部材を製造する際、大型の鋼塊を一度作り、それをプレス機で鍛造を行うか、圧延機で圧延するかという二通りの方法で作られます。今回問題になっているのは、この鍛造品を作る際に、原料鋼塊中の炭素濃度にムラが生じ、それが強度を下げているのではないか?という点です。

炭素偏析と強度不足について一度整理をしておきたいと思います。
炭素偏析は言葉から察すると溶鋼中の炭素濃度のムラのような印象を与えますが、実際にはかなりまとまった分布をもって生じることが知られています。代表的なものを以下の図に示します**。この図は鋼塊の模式図であり、中に+及び-が書き込まれています。この+や-は溶鋼の成分分析値から炭素などの成分がどのようにずれるかを示しています。
今問題になっている偏析は図上部の鋳型の注ぎ口近辺に生じる偏析で、その他の偏析は問題になっていないのでここでは無視します。
 この偏析が生じる理由はジュースを凍らせる話がよく例に出されます。水に塩や砂糖などを入れると融点が下がりますが、このような添加物を含む水を凍らせると、まずは一番融点が高く凍りやすい添加物をあまり含まない氷ができます。すると、氷に含まれなかった添加物は凍っていない水の方に排出されますので、水のほうの添加物の濃度は少し上がります。途中まではこれは水の対流により均されて大した問題にならないのですが、固まる最後の段階ではどうしても添加物の濃度が高いまま凍る事になります。これの水を溶鋼、添加物はC、Ni、Crなどに置き換えれば今回の問題に大体通じます。
 さて、そうして炭素偏析により炭素を多く含む部位を有する鋼材が出来たわけですが、この鋼材について強度不足という表現を用いるのは違和感があります。普通炭素量が多くなれば強度は上がります(例えば針金とピアノ線の違い)。そこでもう少し適切な表現を探すなら靭性不足という表現が適切なように思います。靭性の定義は色々あって難しいのですが、ここでは衝撃が加わったときにどれだけ衝撃に耐えられるか?という視点で考えるのがいいように思います。これを評価する試験にシャルピー衝撃試験というものがあり、この尺度で炭素偏析のある部材の機械試験結果を見ると、たしかに炭素偏析偏析が生じた部材に問題があることがわかります**。


以上を踏まえて第37回原子力規制委員会 資料2 仏国原子力安全局で確認された原子炉容器等における炭素偏析の可能性に係る調査の状況等についての日本鋳鍛鋼(JCFC)の資料について見てみます。ちょっとスライドの順番から外れるのですが、JCFCがこの偏析についてどのように評価しているのかを示す図を以下に示します。

スライド中央のモデルは鋼塊の模型であり、上部の押湯という部分は凝固に伴う凝固収縮が製品部に入らないよう設けている部分です右のグラフはモデルが凝固する際の炭素濃度の変化を示しています。一番上が鋼塊最上部、一番下が最下部です。凝固は下から上に進むので、60%凝固したあたりから炭素濃度が増加することがわかります。これだと少しわかりにくいので、JCFCのスライドから、典型例として玄海2号機向け蒸気発生器上蓋の実績を見てみます。左側図が鋼塊模式図で押湯部、押湯中偏析部と切り捨て部が網掛けで示されています。中央図は鍛造材と仕上がり寸法の模式図をであり、図右側はこの鋼塊に生じる炭素偏析の計算結果と、実際に使用した部位(網掛け部)を示しています。
この図からわかるように、玄海2号機の上蓋は炭素偏析が十分小さくなった部位を用いて製造されていることがわかります。国内向けについてはいずれも同様であり、佐賀新聞の玄海原発などの圧力容器 強度不足「可能性低い」は妥当であることがわかりました。

 では、朝日新聞の仏原発4基で強度懸念、日本製部品が原因 原子力規制委はどうでしょうか?スライドの最初に戻ってフランス原発向けSG水室のスライドを見ます。

こちらの製品は確かに指摘通り多くの部分が炭素偏析が生じる領域を含んでいます。鋼塊のサイズは先程の国内向けに比べて半分程度の120t鋼塊であり、使用されている原発のサイズ感はわかりませんが、国内向けに比べて余裕のない設計になっています。なぜ日本鋳鍛鋼はこのような余裕のない設計をしてしまったのでしょうか…。
これはスライドにも書いていますがなんてことはない、「製造当時顧客から製品頂部に対する製品分析の要求はな」く、「RCC-M規格に準拠した顧客要求仕様書に規定される製造プロセスおよび検査項目・基準に適合するための製造検査要領書を提出し、顧客の承認を得て製造を開始した」ためです。

まぁ…あれですよね…フランス側の責任ですよね…。
ちなみにこの規格は「2005年に改訂され」(仏原発4基で強度懸念、日本製部品が原因 原子力規制委)、その結果JCFCの製品が規格に適合しなくなったという話だそうです。なんで朝日新聞はタイトルがそれで中にそんな重要なことを書いているんですかね…。

ちなみに、フランスの原発におけるこの部位の製造者はクルゾ社、JCFC、日本製鋼所(JSW)の三社ですが、JSWの鋼塊については問題視されていません。そこでJSWの鋼塊の実績を見てみます*。
偏析の基準値以上が全て押湯部に収まっていてちょっとびっくりしますねこれは。

以上です。

*第37回原子力規制委員会 資料2 仏国原子力安全局で確認された原子炉容器等における炭素偏析の可能性に係る調査の状況等について
**「フラマンビル3号機(EPR)におけるRV材料(上蓋、下鏡等)の鋼材組成に関する問題」

1 件のコメント:

  1. 凄く分かりやすい説明をありがとうございます❗

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