2021年1月9日土曜日

高速度侵徹の侵徹効率

前回の記事では、高速度侵徹におけるエネルギー効率を考えました。この例では装甲の抵抗が衝突速度と同じオーダーで増加するので、その極限はエネルギー効率は密度から定まる非0な値となりました。

よく知られているように、高速度侵徹の高速度側では侵徹深さは侵徹体の速度に依存しなくなります。ということで、運動エネルギーに対する侵徹深さの効率は高速度側で0になります。ここで、侵徹効率$\eta_p$をどのように考えるかは議論の余地がありますが、

\[ \eta_p(V_0) = P(V_0)\times R_t(V_0)/KE(V_0) \]

として定義してみます。ここで、$V_0$は衝突速度であり、$R_t$は標的強度項です。つまり、投入された運動エネルギーのうち、どれだけ標的強度項が消耗したエネルギーを占めるかという定義になります。

以下に、Anderson-Walkerモデルを用いて計算した$\eta$、$\eta_p$と$V_0$の関係を示します。ここで、標的は鉄($\rho$:7800g/cm3, Y:1GPa)、侵徹体はWHA($\rho$:17800, Y:1GPa)です。


結論としては見てのとおりですね。

2021年1月2日土曜日

高速度侵徹のエネルギー効率

侵徹体の運動エネルギーが標的の侵徹にすべて利用される低速度侵徹と異なり、高速度侵徹では侵徹体が消耗するために初期の運動エネルギー$KE0$は標的が受け止めるエネルギー$W$とは一致しません。
そこで、高速度側の極限では初期の運動エネルギーの何割くらいが侵徹に利用されているのかふと気になりました。

高速度侵徹の極限では侵徹深さ$P$は、侵徹体長さ$L$、侵徹体密度$\rho_p$、標的密度$\rho_t$を用いて

$$P = \sqrt{\frac{\rho_p}{\rho_t}}L $$

と表されます。一方、衝突時の侵徹体の運動エネルギー$KE$は、衝突速度$V_0$を用いて

$$KE = \frac 1 2 L\rho_p V_0^2$$

と表されます。標的の侵徹に使用されるエネルギーは、少し考えどころです。エネルギーは力×距離ですから、侵徹深さがわかってる現在、標的が作る力がわかれば直ちに求められます。標的が作る力はベルヌーイの式を参考にすれば、標的の侵徹に使用されるエネルギー$W$は

$$ W= \frac{1}{2}\rho_t u^2\times P = \frac{1}{2}\rho_t u^2\times \sqrt{\frac{\rho_p}{\rho_t}}L $$

として簡単に得られます。$W$と$KE$の比がエネルギー効率ですから、比を取って適当に解くと、エネルギー効率$\eta$は

$$ \eta = \frac{W}{KE} = \frac{\rho_{t} \sqrt{\frac{\rho_{p}}{\rho_{t}}}}{\rho_{p} \left(\sqrt{\frac{\rho_{t}}{\rho_{p}}} + 1\right)^{2}} $$

として簡単に得られます。まあ適当に、侵徹体としてタングステンの密度(19.3g/cm3)、
標的の密度として鉄の密度(7.8g/cm3)を代入してみれば、$\eta=0.24$程度となり、
高速度侵徹のエネルギー効率は24%程度になることがわかります。

以上、ふと思って計算してみましたが、たぶん昔の偉い人が似たような計算をしている気がします。