2017年8月28日月曜日

衝撃インピーダンスってなんだ?な話

お久しぶりです。鹿部です。

前回の記事からほとんど5ヶ月ぶりですね。終末弾道ネタであれやこれやしてたらまるで面白いネタが見つからなくて全然書くことがありませんでした。

前回とか前々回何を書いてたのかな、と思うとユゴニオ弾性限界の定義とか、修正ベルヌーイの式の具体的な形とかを与えていて、これを使った話を…と書いてるんですが、これはまぁ今回の話ではありません。
前前前回のユゴニオ弾性限界の覚え書きは読んでおくといいかもしれません

今回の話は衝撃インピーダンスってなんだ?というところをササッと。


今回の結論

衝撃インピーダンスと言うのは、物体内を衝撃波が伝播する際、その衝撃波とともに物体の各領域がある速度(粒子速度)で動くが、その時各領域にどれだけの応力が発生するか、を与える係数。
衝撃インピーダンスは物質の密度$\rho$と衝撃波速度$c$の積$\rho c$で表され、衝撃波が弱い時の衝撃インピーダンスは代表的な物質について以下の表の$Z_{s0}$のように表される。


衝撃インピーダンスが出て来るまで

簡潔に言って、音響インピーダンスあるいは衝撃インピーダンスと言うのは、物体内を音波が伝播する時、その音波とともに物体の各領域がある速度(粒子速度)で動く時、その各領域にどれだけの応力が発生するか、を与える係数です。

簡単な例として音叉やガラスのコップのような叩くと音が出るものを考えてみましょう。これらを破壊しないような強さで叩くと、当然ながら音が出ますが、これは叩かれた時に物体内に生じる振動が物体を伝播し、それを受けて空気が一定の振動数で振動させられていることにほかなりません。波動方程式の一般解だとか、そういう面倒な話を取り除き、物体中の各領域が振動する速度(粒子速度)$u(x,t)$が時間$t$とともに$x$軸方向にどう変化するかを単純に次の式で与えます。

\[ u(x,t) =u_0 \sin\left(\omega\left( t - \frac{1} {c} x\right)\right) \]

ここで、$\omega$は角振動数,$c$は物体の音速です。$u_0$は最初に与えられる最大の粒子速度です。
まぁここでは、物体の各領域での粒子速度っていうのは時間と場所で周期的に変化していて音速$c$で伝播していくんだ程度の認識でいます。

物体中の各領域で成り立つ運動方程式は

\[\frac{\partial p}{\partial x}  =- \rho  \frac{\partial u}{\partial t} \]

で表されます。$\rho$は密度です。なんとなく両辺を$x$で積分すると、右辺の$\frac{\partial u}{\partial t}$というのは$\omega u_0 \cos (\omega ( t- \frac{1}{c} x) )$なので

\[ p = -\rho \omega u_0 \int\left( \cos \left(\omega ( t- \frac{1}{c} x \right) \right) dx \]

を計算すれば良くて、これは$\cos (ax)$の積分が$\frac{1}{a} \sin (ax)$であることから、

\[ p = -\rho \omega u_0 \left( \frac{-c}{\omega}\right) \sin \left(\omega \left( t- \frac{1}{c} x \right)  \right) =  \rho c u\]

と簡単に表されます。ところで、この$p= \rho c u$に注目してみると、密度$\rho$は定数、音速$c$は弾性領域では定数となり、振動により生じる応力というのは粒子速度の定数倍になります。そういうわけで$\rho c$をひとまとめにしてインピーダンスと呼び、このインピーダンスが高い物質は同じ粒子速度でも高い応力が生じますよ、というのがこの記事で書きたいことです。衝撃波についても、音速$c$を衝撃波速度に置き換えれば同じように衝撃インピーダンスを定義できます。


ちょっと気をつけること

ところで、音速というのはその音のモードによっていくつか種類がありますが、衝撃インピーダンスを音響インピーダンスで近似したいときは静水圧波の音速(ちょっと日本語でなんていうのがわからないんですがBulk sound speedのことです)を使うのが普通です。その理由はユゴニオ弾性限界の覚え書きユゴニオ弾性限界を超えた後の応力ひずみ線図の覚え書きの通り、弱い衝撃波が生じた時の衝撃波速度は体積弾性率の平方根に比例するからです。
これは少し注意する点で、いわゆる音速で調べると縦波の速度が書かれていることがあります。金属同士の比較であればポアソン比が近いので(比を取れば)そんなに大きな問題にはなりませんが、セラミックスと金属を比較するとポアソン比が大きく異なるので意味がわからない比較になります。

結論

というわけで静水圧波で整理したいくつかの物質の衝撃インピーダンスを以下の表に示します。


この表の出典はC92新刊のWeekend ballisticsで、[2],[3],[8]はそれぞれ
A. Primer, Shock wave compression of condensed matter, (2012), springer
P.J. Hazell, Armor, (2016), CRC press
SP. Narsh, LASL Shock Hugoniot Data, (1980), University of california press.
です。たぶん日本語でも整理されてる本はいっぱいあると思いますが、手元にたまたまあったのがこれらでした。[8]はインターネットで自由に見れるので参考になるかと思います。ここで、$c_0$が体積弾性率から決まる音速で$Z_{s0}$が弱い衝撃波での衝撃波インピーダンスです。これは衝撃波速度の速度が粒子速度に対して$c_0+Su$なる関係を持つとして整理された表です。これらを用いると衝撃インピーダンスの粒子速度が明らかな2つの任意の物質について衝突時の応力を求めることができます。
表を見ると案外セラミックスの衝撃インピーダンスが低いのが興味深いですが、これはセラミックスのポアソン比が低いためにほかなりません(ヤング率とポアソン比の関係はユゴニオ弾性限界の覚え書き参照)。

侵徹との関係

ところで、均一な板を侵徹する場合、衝撃インピーダンスの寄与は小さくL/D=10で1割程度と言われています。これは衝突後純粋に衝撃による界面の移動が生じる時間は極短い時間に限られるためです(この過程、特に除荷側の過程は自分はよく知らないので曖昧ですみません)。その後は前々回のベルヌーイの式とエロージョンを伴う侵徹の覚え書きで示した修正ベルヌーイの式が主であるとよく言われます。
ある種の構造を持った板を侵徹する時、境界ごとに侵徹体は圧力のマッチングをし直す必要があるので(ベルヌーイの式の釣り合いが崩れるので)、衝撃インピーダンスに関連して起こる現象の寄与が大きくなることが想像されます。
まぁなので一次元の侵徹も難しいなぁ、と最近思っています。いい本募集中です。






新刊の委託と誤植について

C92お疲れ様でした。
今回はいくつかのサークルの委託も受けて大賑わいでした。
来ていただいた方ありがとうございました。

さて、夏コミ後に委託を申請したこともあって少し遅くなりましたが、COMIC ZINさんで委託していただいてます。商品ページは以下です。
http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=33537

今回ちょっと時間がなかったこともあってちょくちょく誤植が見つかっているんですが、致命的な所がニ箇所あったのでここで訂正します。
45pの式(2.68)、式(2.70)について

\[\sigma_x =K\varepsilon_x+\frac{4}{3}G\varepsilon_{x\mathrm{HEL}} = K\varepsilon_x+\frac{Y}{2G} \]
\[\sigma_x = K\varepsilon_x+\frac{Y}{2G} \]

と書いていますが正しくは図2.11の通り

\[\sigma_x =K\varepsilon_x+\frac{4}{3}G\varepsilon_{x\mathrm{HEL}} = K\varepsilon_x+\frac{2Y}{3} \]
\[\sigma_x = K\varepsilon_x+\frac{2Y}{3} \]

です。

また、式(3.52),(3.53)ではそれぞれ$V_{lim}^{\prime}$について2乗が抜けており、

\[ Y= R+ \frac 1 2 \rho_t V^{\prime 2}_{lim} \]

\[  V^{\prime 2}_{lim}  = \frac{2(Y-R}{\rho_t} \]

が正しい式です。
よろしくお願いします。

追記
そういえば体積弾性率を求める過程を1章の内容からの連続性を重視して体積ひずみ$\varepsilon_V$が$3\varepsilon$で近似されることを用いて示しましたが、もしかしたら変かもしれません。