2017年10月29日日曜日

お手軽に高速度侵徹を解析したい話

夏コミも終わって小休止と言った感じであんまり本を読めていません。
鹿部です。


今回はベルヌーイの式とエロージョンを伴う侵徹の覚え書きで得た結果から実際に計算するプログラムを作る話です。夏コミの本で行った解析は今回のコードを基本にしたコードで行われていて、今回のコードを使えば高L/D比な弾芯による高速度侵徹のモデルを大まかに扱えます。
基礎的なモデルは当該記事を参照のこと。

ちなみに、Solution of the Long Rod Penetration EquationsにはFortran版のソースコードが載っていますので、今回の話はあんまり目新しいものはありません。

何で書くか

今回はPythonで書いてます。理由としては、自分がPythonしか使えないから最後に出てくる数値積分を簡単に扱うためです。

前提条件

Python3、Numpy、Scipyが使えることを前提としています。
作図とか色々考えるとAnacondaを入れると快適だと思います。
計算をする上で、今回はベルヌーイの式とエロージョンを伴う侵徹の覚え書きのY,Rともに強度がある時の部分を実装しています。それ以外は解析的に簡単に求められるので省略します。

解きたいもの

今回は、
\[P =  \frac{\rho_p}{Y_p} \int_0^{V_0}U\ l\ dV \]
という積分の式を、
侵徹速度$U$と侵徹体後端速度$V$の関係
\[ U = \frac{1}{1-\mu^2} \Biggr(V - \mu \sqrt{ V^2 +A}\Biggl) \]
と、侵徹体が初速$V_0$から$V$まで減速したとき、どれくらい消耗しているかを示す式
\[ \frac{l}{L} = \Biggr( \frac{ V+\sqrt{V^2+A}}{V_0+\sqrt{V_0^2+A}}
\Biggl)^{\bigr(\frac{\rho_p \mu A}{2(1-\mu^2\ )}\ \ \ \bigl)} \exp \Biggr(
\frac{\rho_p \mu}{2Y_p(1-\mu^2)} \biggr( V\sqrt{V^2+A} - \mu V^2 - \bigr[ V_0\sqrt{V_0^2+A} - \mu V_0^2 \bigl] \biggl) \Biggl)
\]
から解きます。$A,\mu$はそれぞれ$A=\frac{2(R_t-Y_p)(1-\mu^2)}{\rho_t},\mu = \sqrt{\frac{\rho_t}{\rho_p}}$です。
$R,Y,\rho$はそれぞれ標的強度、侵徹体強度、密度で、添字のtとpは標的と侵徹体を指しています。

まずは書いてみる

必要なモジュールとしてとりあえずnumpyとscipyだけimportしておきます。
import numpy as np
import scipy

今の侵徹体後端速度$V$から侵徹速度$U$を求める関数は簡単に
def calc_u(V,  mu, A):
    u = 1./(1.-mu**2.)*(V-mu*np.sqrt(V**2.+A))
    if u != u:#nan返したら0にしとくと無難です。
        u = 0
    elif u < 0.:#u<では侵徹は停止しているので0にしときます。
        return 0.
    return u

def calc_A(mu, Rt, Yp, rhot):
    return 2.*(Rt - Yp)*(1.-mu**2.)/rhot

def calc_mu(rhot,rhop):
    return np.sqrt(rhot/rhop)
と書けます。$A,\mu$を計算する関数も一緒に書いておきました。
次に侵徹体後端速度と侵徹体残存長さ$l/L$を求める式を書き下してみます。今、関数の形に注目してみると、侵徹体残存長さ$l/L$というのはある関数$f(v)$を用いると

\[ \frac{l}{L} = \frac{f(V)}{f(V_0)} \]

として書かれることがわかります。式を見比べてみると、関数$f(v)$というのは

\[ f(v) = \left(v+\sqrt{v^2+A}\right)^{\frac{\rho_p \mu A}{2(1-\mu^2\ )}}
\ \ \ \exp\left(\frac{\rho_p \mu}{2Y_p(1-\mu^2)}\left( v\sqrt{v^2+A} - \mu v^2\right) \right)\]

なので、これを素直に書き下せば、侵徹体残存長さ$l/L$というのは関数calc_lのように得られます。

def f(V,  mu, A,  Yp, rhop):
    return (V+np.sqrt(V**2.+A))**(rhop*A/2./(1.-mu**2.)*\
            np.exp(rhop*mu/2./Yp/(1.-mu**2.)*(V*np.sqrt(V**2.+A)-mu*V**2.))

def calc_l(V, V0, mu, A, Yp, rhop):
    #f(V)/f(V0)を計算
    return f(V, mu, A, Yp, rhop)/f(V0, mu, A, Yp, rhop)

ここまでくればあと少しで、これを
\[P =  \frac{\rho_p}{Y_p} \int_0^{V_0} u\ l\ dV \]
に突っ込めば侵徹長さが出ます。後は$U$と$l$の積をscipyのquad関数に投げればよくて、

def ul(V, V0, mu, A, rhop, Yp):
    return calc_l(V, V0,mu,A,rhop)*calc_u(V, mu, A)*rhop/Yp
def calc_P(V0, mu, A, rhop, Yp):
    a = scipy.integrate.quad(ul, 0, V0, args=(V0, mu, A, rhop, Yp))
    return a[0]
として、侵徹深さ$P/L$を求める事ができます。
侵徹体としてタングステン、標的として高強度鋼を想定して、$\rho_p = 17000 kg/m^3,\ \rho_t = 7900 kg/m^3,\ Y_p = 2\times10^9 Pa,\ R_t = 6\times10^9 Pa$として初速$V_0$を0m/sから2500m/sの間で変化させながら計算してみると、以下のような図を得ます。


これはタングステン弾芯と高強度鋼標的の衝突ではありがちな曲線です。

この形の問題点

この形の問題点は簡単で、今は侵徹体が標的より軟らかい時のみを考えており、$Y_p \gt R_t$では正しい値を返しません。というわけで$Y_p\gt R_t$な時の状況を考えてみましょう。

$Y_p \gt R_t$の時の解 

この時の解は前回は与えていませんが、C92で頒布したWeekend ballisticsでは説明しているので、今回はその説明を使って進めます。
$Y_p \gt R_t$の時、侵徹は以下の図のように進行します。



ここで、$V^{\prime}_{lim}$はエロージョンによる侵徹が止まる速度で、$V^{\prime}_{lim}$以下では一般的な徹甲弾と同じように弾体形状を保ったまま侵徹が進行します。そこで、計算を二段階に分けます。

1. 侵徹体後端速度が$V\gt V^{\prime}_{lim}$である時、侵徹体は消耗しながら侵徹し、$V^{\prime}_{lim}$で侵徹体長さは$l_r/L$だけ残して消耗が止まる。
2. $V^{\prime}_{lim}$以下の速度では侵徹体は消耗せず侵徹を行う。

2.のステップについては運動方程式を解くことにより、
\[ P/l_r = \frac{1}{\mu^2}\log \left(1+\frac{\rho_t V^{\prime 2}_{lim}}{2R_t}\right) \]
として簡単に与えられます。
$V^{\prime}_{lim}$を計算するのは簡単で、ベルヌーイの式とエロージョンを伴う侵徹の覚え書きの圧力の釣り合いの式で$V=U$になるような$V$を求めればよく、

\[ Y_p +\frac{1}{2} \rho_p (V-U)^2 = \frac{1}{2}\rho_t U^2 + R_t \]

から、

\[ V^{\prime}_{lim} = \sqrt{\frac{2(Y-R)}{\rho_t}} \]

で与えられます。また、$V^{\prime}_{lim}$での侵徹体残存長さ$l_r/L$はcalc_lの引数Vを$V^{\prime}_{lim}$とするだけで大丈夫です。そうすると関数calc_Pは

def calc_vlim(rhot, Yp, Rt):
    return np.sqrt(2.*(Yp-Rt)/rhot)

def calc_P(V0, mu, A, rhop, rhot, Yp, Rt):
     if Yp =< Rt:
         a = scipy.integrate.quad(ul, 0, V0, args=(V0, mu, A, rho, Yp))
         return a[0]
    elif  Yp > Rt:
        vc = calc_vlim(rhot, Yp, Rt)
        lr = 1
        b = 0.
        if V0 > vc:
            lr = calc_l(vc, V, mu, A, Yp, rhop)
            a = scipy.integrate.quad(ul, vc, V0, args=(V0, mu, A, rhop, Yp))
            b += a[0]
        elif V0 <= P.vc:
            vc = V0
        b += lr*np.log(1 +0.5*rhot*vc**2./Rt)*1/mu**2.
        return b

のような形に書き換えれば良いことになります。これを用いて侵徹深さを求めたのが、以下の図になります。計算条件は図中の通りで、図中丸印は実験結果です。このようにベルヌーイの式を用いることで実験結果を精度良く再現することが可能です。


計算する時に気をつけること

そんなわけで侵徹体と標的の密度と強度さえ設定すれば色々遊ぶことができるこのコードですが、気をつけることが色々あるように思います。

1. 強度はあくまでも計算パラメーター
タングステン弾芯と高強度鋼標的について計算した際、Rtを6GPaとして与えました。これはJ. ZukasのHigh velocity impact dynamicsよりパラメーターを拝借したものですが、高強度鋼は普通このような強度をユゴニオ弾性限界であっても示しません。なので、特に標的強度については材料的な意味を求めるのは中々難しいものがあります。

2. Primary phaseのみを考慮している
高速度侵徹は大きく分けて3つに侵徹過程を分けることができますが、今回のコードではその中で最も主要な役割を果たすPrimary phaseのみを考慮しています。極端な低速度/高速度はあまり見ないほうが良いような気がします。

3. L/D比を考慮することができない
高速度侵徹はL/D比によって侵徹深さが変わるのはよく知られた事実ですが、この現象をうまく整理するのはなかなか難しいものがあります(試みられてはいます)。


こういう事情がありますが、dticなどにある実験結果を用いてフィッティングして、全体の曲線を見積もるなどすると楽しめる気がします。

2017年8月28日月曜日

衝撃インピーダンスってなんだ?な話

お久しぶりです。鹿部です。

前回の記事からほとんど5ヶ月ぶりですね。終末弾道ネタであれやこれやしてたらまるで面白いネタが見つからなくて全然書くことがありませんでした。

前回とか前々回何を書いてたのかな、と思うとユゴニオ弾性限界の定義とか、修正ベルヌーイの式の具体的な形とかを与えていて、これを使った話を…と書いてるんですが、これはまぁ今回の話ではありません。
前前前回のユゴニオ弾性限界の覚え書きは読んでおくといいかもしれません

今回の話は衝撃インピーダンスってなんだ?というところをササッと。


今回の結論

衝撃インピーダンスと言うのは、物体内を衝撃波が伝播する際、その衝撃波とともに物体の各領域がある速度(粒子速度)で動くが、その時各領域にどれだけの応力が発生するか、を与える係数。
衝撃インピーダンスは物質の密度$\rho$と衝撃波速度$c$の積$\rho c$で表され、衝撃波が弱い時の衝撃インピーダンスは代表的な物質について以下の表の$Z_{s0}$のように表される。


衝撃インピーダンスが出て来るまで

簡潔に言って、音響インピーダンスあるいは衝撃インピーダンスと言うのは、物体内を音波が伝播する時、その音波とともに物体の各領域がある速度(粒子速度)で動く時、その各領域にどれだけの応力が発生するか、を与える係数です。

簡単な例として音叉やガラスのコップのような叩くと音が出るものを考えてみましょう。これらを破壊しないような強さで叩くと、当然ながら音が出ますが、これは叩かれた時に物体内に生じる振動が物体を伝播し、それを受けて空気が一定の振動数で振動させられていることにほかなりません。波動方程式の一般解だとか、そういう面倒な話を取り除き、物体中の各領域が振動する速度(粒子速度)$u(x,t)$が時間$t$とともに$x$軸方向にどう変化するかを単純に次の式で与えます。

\[ u(x,t) =u_0 \sin\left(\omega\left( t - \frac{1} {c} x\right)\right) \]

ここで、$\omega$は角振動数,$c$は物体の音速です。$u_0$は最初に与えられる最大の粒子速度です。
まぁここでは、物体の各領域での粒子速度っていうのは時間と場所で周期的に変化していて音速$c$で伝播していくんだ程度の認識でいます。

物体中の各領域で成り立つ運動方程式は

\[\frac{\partial p}{\partial x}  =- \rho  \frac{\partial u}{\partial t} \]

で表されます。$\rho$は密度です。なんとなく両辺を$x$で積分すると、右辺の$\frac{\partial u}{\partial t}$というのは$\omega u_0 \cos (\omega ( t- \frac{1}{c} x) )$なので

\[ p = -\rho \omega u_0 \int\left( \cos \left(\omega ( t- \frac{1}{c} x \right) \right) dx \]

を計算すれば良くて、これは$\cos (ax)$の積分が$\frac{1}{a} \sin (ax)$であることから、

\[ p = -\rho \omega u_0 \left( \frac{-c}{\omega}\right) \sin \left(\omega \left( t- \frac{1}{c} x \right)  \right) =  \rho c u\]

と簡単に表されます。ところで、この$p= \rho c u$に注目してみると、密度$\rho$は定数、音速$c$は弾性領域では定数となり、振動により生じる応力というのは粒子速度の定数倍になります。そういうわけで$\rho c$をひとまとめにしてインピーダンスと呼び、このインピーダンスが高い物質は同じ粒子速度でも高い応力が生じますよ、というのがこの記事で書きたいことです。衝撃波についても、音速$c$を衝撃波速度に置き換えれば同じように衝撃インピーダンスを定義できます。


ちょっと気をつけること

ところで、音速というのはその音のモードによっていくつか種類がありますが、衝撃インピーダンスを音響インピーダンスで近似したいときは静水圧波の音速(ちょっと日本語でなんていうのがわからないんですがBulk sound speedのことです)を使うのが普通です。その理由はユゴニオ弾性限界の覚え書きユゴニオ弾性限界を超えた後の応力ひずみ線図の覚え書きの通り、弱い衝撃波が生じた時の衝撃波速度は体積弾性率の平方根に比例するからです。
これは少し注意する点で、いわゆる音速で調べると縦波の速度が書かれていることがあります。金属同士の比較であればポアソン比が近いので(比を取れば)そんなに大きな問題にはなりませんが、セラミックスと金属を比較するとポアソン比が大きく異なるので意味がわからない比較になります。

結論

というわけで静水圧波で整理したいくつかの物質の衝撃インピーダンスを以下の表に示します。


この表の出典はC92新刊のWeekend ballisticsで、[2],[3],[8]はそれぞれ
A. Primer, Shock wave compression of condensed matter, (2012), springer
P.J. Hazell, Armor, (2016), CRC press
SP. Narsh, LASL Shock Hugoniot Data, (1980), University of california press.
です。たぶん日本語でも整理されてる本はいっぱいあると思いますが、手元にたまたまあったのがこれらでした。[8]はインターネットで自由に見れるので参考になるかと思います。ここで、$c_0$が体積弾性率から決まる音速で$Z_{s0}$が弱い衝撃波での衝撃波インピーダンスです。これは衝撃波速度の速度が粒子速度に対して$c_0+Su$なる関係を持つとして整理された表です。これらを用いると衝撃インピーダンスの粒子速度が明らかな2つの任意の物質について衝突時の応力を求めることができます。
表を見ると案外セラミックスの衝撃インピーダンスが低いのが興味深いですが、これはセラミックスのポアソン比が低いためにほかなりません(ヤング率とポアソン比の関係はユゴニオ弾性限界の覚え書き参照)。

侵徹との関係

ところで、均一な板を侵徹する場合、衝撃インピーダンスの寄与は小さくL/D=10で1割程度と言われています。これは衝突後純粋に衝撃による界面の移動が生じる時間は極短い時間に限られるためです(この過程、特に除荷側の過程は自分はよく知らないので曖昧ですみません)。その後は前々回のベルヌーイの式とエロージョンを伴う侵徹の覚え書きで示した修正ベルヌーイの式が主であるとよく言われます。
ある種の構造を持った板を侵徹する時、境界ごとに侵徹体は圧力のマッチングをし直す必要があるので(ベルヌーイの式の釣り合いが崩れるので)、衝撃インピーダンスに関連して起こる現象の寄与が大きくなることが想像されます。
まぁなので一次元の侵徹も難しいなぁ、と最近思っています。いい本募集中です。






新刊の委託と誤植について

C92お疲れ様でした。
今回はいくつかのサークルの委託も受けて大賑わいでした。
来ていただいた方ありがとうございました。

さて、夏コミ後に委託を申請したこともあって少し遅くなりましたが、COMIC ZINさんで委託していただいてます。商品ページは以下です。
http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=33537

今回ちょっと時間がなかったこともあってちょくちょく誤植が見つかっているんですが、致命的な所がニ箇所あったのでここで訂正します。
45pの式(2.68)、式(2.70)について

\[\sigma_x =K\varepsilon_x+\frac{4}{3}G\varepsilon_{x\mathrm{HEL}} = K\varepsilon_x+\frac{Y}{2G} \]
\[\sigma_x = K\varepsilon_x+\frac{Y}{2G} \]

と書いていますが正しくは図2.11の通り

\[\sigma_x =K\varepsilon_x+\frac{4}{3}G\varepsilon_{x\mathrm{HEL}} = K\varepsilon_x+\frac{2Y}{3} \]
\[\sigma_x = K\varepsilon_x+\frac{2Y}{3} \]

です。

また、式(3.52),(3.53)ではそれぞれ$V_{lim}^{\prime}$について2乗が抜けており、

\[ Y= R+ \frac 1 2 \rho_t V^{\prime 2}_{lim} \]

\[  V^{\prime 2}_{lim}  = \frac{2(Y-R}{\rho_t} \]

が正しい式です。
よろしくお願いします。

追記
そういえば体積弾性率を求める過程を1章の内容からの連続性を重視して体積ひずみ$\varepsilon_V$が$3\varepsilon$で近似されることを用いて示しましたが、もしかしたら変かもしれません。

2017年3月1日水曜日

ユゴニオ弾性限界を超えた後の応力ひずみ線図の覚え書き

最近はもっぱらフックの法則で遊んでいます。
ところで、前回の記事の図4で、500m/sでWをAlにぶつけてもユゴニオ弾性限界を優に超えていると書きましたが、この圧力時間線図は平板衝突実験により得られています。平板衝突は一軸ひずみを維持しやすい状況ですが、それと実際の高L/D比の侵徹を比較するのは変かもしれませんね。

今回の目標

今回の目標は降伏応力Yの完全弾塑性体(降伏したあとは一定の応力で変形し続ける)の物質の一軸ひずみにおける応力ひずみ線図をフックの法則から求め、単純に引っ張ったときの応力ひずみ線図との差を見ることにあります。具体的には以下の図。ここからわかることは下の方の結論にざっとまとめています。
図 降伏応力Yの完全弾塑性の一軸応力、一軸ひずみでの応力ひずみ線図

以下式展開

前回の記事でユゴニオ弾性限界(HEL)がフックの法則から
\[ \mathrm{HEL} = \frac{1-\nu}{1-2\nu}Y \]
と簡単に表されることがわかりましたが、降伏応力がYの完全弾塑性体の一軸ひずみ変形での応力ひずみ線図はどんなもんなんでしょうか。

とりあえず弾性領域ではフックの法則を使えばいいので、先程の式を引っ張ってきて
\[ \sigma_{11} = \frac{ \nu E }{( 1 + \nu )( 1- 2 \nu ) }\varepsilon_{11}+ \frac{E}{1+ \nu } \varepsilon_{11}= \frac{ (1-\nu) E }{( 1 + \nu )( 1- 2 \nu ) }\varepsilon_{11} \]を元に進めましょう。中辺第一項の分子がわかりにくい形になっているので
\[ \sigma_{11} = \frac{ a E }{ 1- 2 \nu  }\varepsilon_{11}+ \frac{bE}{1+ \nu } \varepsilon_{11} \]
の形で整理してみましょう。とりあえず通分して分子を見てみると
\[ (1+\nu) a + (1-2\nu)b = 1-\nu \]
の恒等式を得るので、$a+b=1$、$a-2b=-1$を解けばいいでしょう。すると、$a = \frac{1}{3}, b= \frac{2}{3}$を得ます。これを使って整理してやると、
\[ \sigma_{11} = \frac{  E }{ 3(1- 2 \nu)  }\varepsilon_{11}+ \frac{2E}{3(1+ \nu) } \varepsilon_{11} \]
となります。Wikipediaの体積弾性率剛性率を見てやると、各項は更に整理できて
\[ \sigma_{11} =  \biggl(K +\frac{4}{3}G \biggr)\varepsilon_{11} \]
とスッキリした形で得られます。
 この式から一軸ひずみ変形での弾性定数は一軸応力の式とは異なり、弾性率がヤング率$E$ではなくなっていますが、更に静水圧の弾性定数の$K$だけでなくせん断での弾性定数$G$も加えられています。鉄の場合、$K$が170GPa、$G$が72GPa程度なので、一軸ひずみ変形での弾性定数は270GPa程度となり、一軸応力(普通の圧縮)の弾性定数であるヤング率$E$の200GPaよりも大きくなり、より圧縮されにくいことがわかります。

それでは、降伏した後はどうでしょうか。完全弾塑性体ですので、降伏した後は塑性変形に必要な応力は常にY(前半のトレスカの条件)です。また、それとは別に塑性変形に寄与しない静水圧応力が圧縮に伴い増加します。まず一度塑性変形に寄与しない静水圧応力を求めてみます。これは簡単で、掛かっている全ての主応力の平均であり、
\[P = \frac{\sigma_{11}+\sigma_{22}+\sigma_{33}}{3} = \frac{\sigma_{11}+2\sigma_{22}}{3} \]
ですが、
\[ \sigma_{11} = \frac{ \nu E }{( 1 + \nu )( 1- 2 \nu ) }(\varepsilon_{11})+ \frac{E}{1+ \nu } \varepsilon_{11} \]
\[\sigma_{22} = \frac{ \nu E }{(1+\nu) (1- 2\nu)}(\varepsilon_{11}) \]
なので素直に足し合わせれば
\[P=\frac{ \frac{3\nu E}{(1+\nu)(1-2\nu)} + \frac{E}{1+\nu }}{3} = \frac{E}{3(1-2\nu)} = K\varepsilon_{11}  \]
が得られます。では次に見やすい形で降伏条件を求めるために$\sigma_{22}$についても$\sigma_{11}$と同じ表式にしてみます。
\[\sigma_{22} = \frac{ \nu E }{(1+\nu) (1- 2\nu)}(\varepsilon_{11}) =\frac{aE}{1-2\nu } + \frac{bE}{1+\nu} \]
の形において同じように解くと、$a=\frac{1}{3}, b=\frac{-1}{3}$が得られ、
\[\sigma_{22}  = \biggl(K-\frac{2}{3}G \biggr) \varepsilon_{11} \]
を得ます。これをトレスカの式( $ \sigma_{11} - \sigma_{22} = Y $ )に突っ込むと、
\[ \biggl(K+\frac{4}{3}G\biggr)\varepsilon_{11} -\biggl(K-\frac{2}{3}G\biggr)\varepsilon_{11} = 2G\varepsilon_{11} = Y \]
が得られます。この式から2つのことがわかります。一つは、降伏に寄与しないとした静水圧応力はきれいに消え、せん断成分のみで降伏が決定すること。もう一つは、ユゴニオ弾性限界に達するひずみは$\frac{Y}{2G}$であることです。
これらのことから、一軸ひずみ変形では$\varepsilon_{11} = \frac{Y}{2G}$で一軸ひずみの降伏応力HELに到達することがわかります。また、完全弾塑性体ですから降伏に達したあとは偏差応力は常にトレスカの式を満たす応力に保たれるので、ユゴニオ弾性限界に達するひずみが$\frac{Y}{2G}$であることを以下の式第二項に代入することで
\[ \sigma_{11} =  \biggl(K +\frac{4}{3}G \biggr)\varepsilon_{11}= K\varepsilon_{11}+\frac{2}{3}Y \]
として、降伏後の一軸ひずみ領域での勾配が求まります。


結論

とまぁ、完全弾塑性体の一軸ひずみ状態での応力ひずみ線図をごそごそと求めてきたわけですが、具体的にはどんな応力ひずみ線図になるんでしょうか?というわけで以上をまとめたものを以下の図に示します。青色の線は完全弾塑性体を一軸引張りしたときの応力ひずみ線図で、応力が降伏応力に達したあとは一定の応力を保ち続けています。一方で、赤色の線は一軸ひずみ状態で青色の線の物質を圧縮したときの応力ひずみ線図を示しています。図のようにユゴニオ弾性限界に達した後も応力は体積弾性率に比例して増加していることがわかります。高強度鋼のHELは大体3,4GPa程度ですが、HELに達するひずみY/2Gは概ね2,3%のオーダーです。仮に高速度衝突により10%もひずめばHELを遥かに超える20GPa近い応力がかかることになるので、その場合事実上材料強度の影響は無視でき、材料の静水圧的特性に支配されることがわかります。

図 降伏応力Yの完全弾塑性の一軸応力、一軸ひずみでの応力ひずみ線図

ところで、上の図では体積弾性率はひずみによらず一定としていますが、実際には体積弾性率はひずみに強く依存し、圧縮されればされるほど体積弾性率は高くなるので、一軸ひずみでの応力ひずみ線図はユゴニオ弾性限界の記事で示したような下に凸の図になることがわかり、変形に伴い衝撃波が発生することがわかります。

図 一軸ひずみでの応力ひずみ線図の模式図

ただ、高速度衝突では断熱圧縮的になりますので、もう少し圧力項と体積弾性率の圧力依存性に補正を加える必要がありますが、今回は静的な領域で話を終えましょう。

駆け足になりましたが以上です。
正直、この衝撃波の議論と侵徹の議論が中々ただちには繋がらなくて難しいです。

2017年2月11日土曜日

ベルヌーイの式とエロージョンを伴う侵徹の覚え書き

ユゴニオ弾性限界と来たら次はベルヌーイの式だろうと思って最近ちまちま調べ物していました。
今回はいつも以上に覚え書きです。
また、流体で扱うベルヌーイの式を探して来られた方には合わない内容となっています。

高速度の侵徹(特にHEAT)を議論する時、大前提として侵徹長さは密度比で決定されるとよく言われるように思います。
これを議論する時、しばしばベルヌーイの式が出てきますが、そこからどうやったら出てくるのかがよくわからなかったので適当に式をいじってみるか、というのが今回の記事の目的です。誰かに示すための数式とかもう何年も書いたことないので読みにくいと思います。

ベルヌーイの式

自分は流体の基礎が全く無いのでまず式ありきになってしまうんですが、いわゆる一般的な材料強度を考慮したベルヌーイの式は
\[ Y_p +\frac{1}{2} \rho_p (V-U)^2 = \frac{1}{2}\rho_t U^2 + R_t \]
で与えられます。左辺は弾芯が作る圧力、右辺は標的が作る圧力で、$Y_p$は弾芯強度、$\rho_p, \rho_t$は弾芯密度、標的強度、$V,U$は弾芯後端速度(衝突直後は衝突速度)と侵徹速度、$R_t$は標的強度です。$Y_p$,$R_t$が与える影響の議論は今回は省略します。先端が速度$U$で侵徹し、後端は速度$V$で進行することから、弾芯が消耗する速度は以下の式で与えられます。
\[ \frac{dl}{dt} = -(V-U) \]
ここで、$l$は弾体の長さ、$t$は時間です。
さて、侵徹の際、先端部のみが塑性変形をし、残部は剛体のように振る舞えば反力によって減速しますが、この際に弾芯後端が受ける応力は(完全弾塑性体であれば)、$Y_p$に等しいことがわかります。そこで、弾芯後端の運動方程式を
\[ -Y_p = \rho_p l \frac{dv}{dt} \]
と立てます*。

これが今回使う式です。

弾芯と標的の両方に強度がないケース

一般的に解く前に、特殊な場合について考えます。$Y_p=R_t=0$の時、ベルヌーイの式は
\[ \frac{1}{2} \rho_p (V-U)^2 = \frac{1}{2}\rho_t U^2  \]
となります。
この時、侵徹速度$U$は単純に解いて
\[ U = \frac{V}{1+\sqrt{\frac{\rho_t}{\rho_p}}} \]
が得られます。$Y_p$が0ですから、
\[ -Y_p = \rho_p l \frac{dv}{dt} \]
から$V$は一定であり、
\[ \frac{dl}{dt} = -(V-U) \]
弾芯の消耗速度は一定であることがわかります。そこで、侵徹の持続時間$\tau$は弾芯が消耗しきるまでの時間ですから、弾芯長さを$L$として、
\[ \tau = \frac{L}{V-U} \]
とするのが妥当です。 すると侵徹深さ$P$というのは、時間$\tau$の間に侵徹速度$U$だけ進むことと同じなので、
\[ P =U\tau = \frac{UL}{V-U} = \frac{
\frac{VL}
{1+\sqrt{\frac{\rho_t}{\rho_p} } }}
{\frac{V\sqrt{\frac{\rho_t}{\rho_p}}}
{1+\sqrt{ \frac{\rho_t}
{\rho_p} } }} = L\sqrt{\frac{\rho_p}{\rho_t}}
\]
が得られます。この結論は重要で、理想的には弾芯長さで規格化された侵徹深さ$\frac{P}{L}$は標的と侵徹体の密度の比の平方根$\sqrt{\frac{\rho_p}{\rho_t}}$で一定となることがわかります。

弾芯に強度がないケース

弾芯に強度がない時、これは先程の例と同じように$Y_p$が0ですから、
\[ -Y_p = \rho_p l \frac{dv}{dt} \]
から$V$は一定であり、
\[ \frac{dl}{dt} = -(V-U) \]
弾芯の消耗速度は一定であることがわかります。ただし、ベルヌーイの式は少し変わって
\[ \frac{1}{2} \rho_p (V-U)^2 = \frac{1}{2}\rho_t U^2  +R_t\]
となります。この場合、侵徹体が強度がない一方で、標的には強度があるので、速度が一定の速度まではエロージョンを伴った侵徹を起こさない(侵徹速度$U=0$)ことがわかります。そこで、$U=0$について上式を解けば、
\[V = \sqrt{\frac{2R_t}{\rho_p}} \]
が得られ、衝突速度がこれ以上であれば侵徹が生じることがわかります。この速度を特別に$V_c$と置いておきます。

そこで、$V_c$以上の速度について、侵徹速度$U$を平方完成して求めると侵徹速度$U$は
\[  (\rho_p - \rho_t)U-2\rho_p UV + \rho_p V^2 = 2R_t \]
\[(\rho_p -\rho_t) (U-\frac{\rho_p}{\rho_p- \rho_t}V)^2 - \frac{\rho_p^2 - \rho_p (\rho_p-\rho_t)}{\rho_p-\rho_t} = 2R_t \]
から、
\[U =  \frac{
\rho_p V-\sqrt{
\rho_p\rho_t V^2 +2R_t(\rho_p-\rho_t)}}{
\rho_p-\rho_t} \]
が得られます。あるいは、$\mu = \sqrt{\frac{\rho_t}{\rho_p}}$とおけば、
\[ U = \frac{1}{1-\mu^2} \Biggr(V - \mu \sqrt{ V^2 +\frac{2R_t(1-\mu^2)}{\rho_t}}\Biggl) \]
と整理することが出来ます。

後は先程と同様に、
\[ \tau = \frac{L}{V-U} \]
から、
\[ P =U\tau = \frac{UL}{V-U} = \frac{
L \frac{1}{1-\mu^2} \Biggr(V - \mu \sqrt{ V^2 +\frac{2R_t(1-\mu^2)}{\rho_t}}\Biggl)
}
{ \frac{1}{1-\mu^2} \Biggr(-\mu^2 V + \mu \sqrt{ V^2 +\frac{2R_t(1-\mu^2)}{\rho_t}}\Biggl) }
= L\frac{\Biggr(V - \mu \sqrt{ V^2 +\frac{2R_t(1-\mu^2)}{\rho_t}}\Biggl)}{ \Biggr(-\mu^2 V + \mu \sqrt{ V^2 +\frac{2R_t(1-\mu^2)}{\rho_t}}\Biggl)}
\]
が得られます。

ここで重要なのは、弾芯に強度がない場合でも、一定の速度以上であれば強度のある標的を侵徹することが出来るという点です。この時、最も単純には標的にはユゴニオ弾性限界を超えた圧力がかかっていて、互いにエロージョンを起こしながら侵徹することがわかります**。

弾芯と標的共に強度があるケース

この場合、$Y_p > R_t$と$Y_p < R_t$の場合が考えられますが、エロージョンによる侵徹を考える立場から、$Y_p < R_t$の場合のみを考えます。この場合、ベルヌーイの式は
\[ Y_p +\frac{1}{2} \rho_p (V-U)^2 = \frac{1}{2}\rho_t U^2 + R_t \]
であたえられます。今回は先の2つの例と異なり$Y_p \neq 0$であるため、
\[ -Y_p = \rho l \frac{dv}{dt} \]
から、弾芯後端速度$V$は連続的に変化することがわかります。そこで、これについて考慮しつつ考えていきます。
何はともあれ、ベルヌーイの式は$V$と$U$の関係を与えるので、ここから手を付けていくことにします。この場合、$Y_p$を右辺に移してしまえば後は標的にのみ強度がある場合と同じであることは明らかで、
\[ U = \frac{1}{1-\mu^2} \Biggr(V - \mu \sqrt{ V^2 +\frac{2(R_t-Y_p)(1-\mu^2)}{\rho_t}}\Biggl) \]
となります。$A=\frac{2(R_t-Y_p)(1-\mu^2)}{\rho_t}$と置いてしまえばシンプルに、
\[ U = \frac{1}{1-\mu^2} \Biggr(V - \mu \sqrt{ V^2 +A}\Biggl) \]
が得られます。これで$V$と$U$の関係がわかったので、
\[ -Y_p = \rho_p l \frac{dv}{dt} \]

\[ \frac{dl}{dt} = -(V-U) \]
を突っ込んで解いてやれば解けそうな気がします。そこで素直に突っ込んでやると、
\[Y_p = \rho_p l (V-U) \frac{dV}{dl} \]
が得られるので、片々整理して
\[\frac{dl}{l} = \frac{\rho_p}{Y_p} (V-U) dV. \]
$U$も顕に書けば、
\[\frac{dl}{l} = \frac{\rho_p}{Y_p} \Bigr( \frac{1}{1-\mu^2}\bigr(-\mu^2 V +\mu\sqrt{V^2+A} \bigl) \Bigl) dV \]
が得られるので、これを積分すればいいだろう、ということがわかります。左辺は残った弾体長さ$l$についての積分で、不定積分は
\[ I_l = \log l +C_l \]
$V=V_0$のとき、侵徹は始まっていないので$l=L$でしょう。また、任意の速度$V$の時は$l$としておきます。なので左辺は
\[ 左辺=\log(l/L) \]
になります。右辺の積分は少し手強いです。積分の範囲は衝突速度$V_0$から任意の速度$V$までと取ることにして、まずは不定積分をしてみます。$\frac{1}{1-\mu^2}(-\mu^2 V) $は簡単で、
\[ I_0 = \frac{1}{2(1-\mu^2)}(-\mu^2 V) +C_0 \]
です。残った$\frac{1}{1-\mu^2}(\mu\sqrt{V^2+A})$の積分は、このページを参考にすると
\[ I_1 = \frac{1}{2(1-\mu^2)}\Bigr(\mu\bigr(V\sqrt{V^2+A} + A \log(V+\sqrt{V^2+A})\bigl)\Bigl)  +C_1\]
が得られるので、これらを$V_0$から$V$まで積分すると、
\[右辺=\frac{\rho_p \mu}{2Y_p(1-\mu^2)}\Bigr( V\sqrt{V^2+A} + A \log(V+\sqrt{V^2+A}) - \mu V^2 -\big[ V_0\sqrt{V_0^2+A} + A \log(V_0+\sqrt{V_0^2+A}) - \mu V_0^2 \bigl] \Bigl) \]
が得られます。右辺と左辺をまとめてやると、

\[ \frac{l}{L} = \Biggr( \frac{ V+\sqrt{V^2+A}}{V_0+\sqrt{V_0^2+A}}
\Biggl)^{\bigr(\frac{\rho_p \mu A}{2(1-\mu^2\ )}\ \ \ \bigl)} \exp \Biggr(
\frac{\rho_p \mu}{2Y_p(1-\mu^2)} \biggr( V\sqrt{V^2+A} - \mu V^2 - \bigr[ V_0\sqrt{V_0^2+A} - \mu V_0^2 \bigl] \biggl) \Biggl)
\]

ここまでくれば侵徹深さを求めるまであと一息です。侵徹深さは先程と同じように侵徹速度$U$の時間積分ですが、このままでは扱いにくいので、$ -Y_p = \rho_p l \frac{dv}{dt} $から、$dt = -\frac{\rho_p l}{Y_p}$となるので、
\[P = \int^t_0 u dt = -\frac{\rho_p}{Y_p} \int^0_{V_0} uldV = \frac{\rho_p}{Y_p} \int_0^{V_0} u\ l\ dV \]
簡潔にまとめて、
\[P =  \frac{\rho_p}{Y_p} \int_0^{V_0} u\ l\ dV \]

を適当に積分することで得られます。ただ、個人的な雑感ですが、最後の積分の下端は0ではなく、エロージョンが開始する速度$V_c= \sqrt{\frac{2(R_t-Y_p)}{\rho_p}} $としたほうが見通しがいいかなと思います。

以上の式はAlekseevskiiとTateによって196年代後半にかけて展開されたモデルであり、非常に見通しの良い解を簡便に得ることが出来ます***。近いうちにこのモデルからわかるいくつかの簡単なことについてネタに出来たらなと思っています。

ただ、この式は侵徹の過程初期と侵徹後期では厳密なシミュレーションから外れることが知られているので、あくまでも初期のモデルの一つと理解するのがいいのかな?という感触です。侵徹深さに対する侵徹体長さの影響は明快ですが侵徹体径がどう影響するかは不明ですし、セルフシャープニングの影響を取り込むことも出来ません。わかりやすいだけに注意して取り扱うのがいいのかな、と考えています。

今回のネタを書くに当たり
Z. Rosenberg, E. Dekel, Terminal Ballistics, (2016), Springer
PJ Hazell: Armour: Materials, Theory, and Design, (2015), CRC Press
を底本にしました。

*この式に至る前にはもう一本式があるらしいですが細かいことはおいておきます。
**しかし$V_c$より僅かに速い程度では、材料強度の$R_t$項の寄与が大きく、侵徹はほとんど起こらないこともこの式から明らかです。
***密度が一緒だったら発散しないの?とかいうことは考えないようにしましょう。

2017年2月4日土曜日

ユゴニオ弾性限界の覚え書き

 お久しぶりです。冬コミは委託での参加でしたが、盛況だったようで何よりです。
 最近は鉄からちょっと離れてずっと気になってた、終末弾道というか高速度衝撃について調べていて、ユゴニオ弾性限界についての覚書を今回は。前回のセルフシャープニングの覚書の続きみたいなものですね。

本記事は、徹甲弾の侵徹の議論で出てくるユゴニオ弾性限界について定義を紹介するものであり、まじめに衝撃波について考えるものではありません。

ユゴニオ弾性限界

ユゴニオ弾性限界(Hugoniot Elastic Limit, HEL)というのはHEAT、あるいはAPFSDSの侵徹過程を特徴づけるものとして頻繁に話される用語だと思います。HEATAPFSDSではユゴニオ弾性限界より高い圧力が生じるので、流体のように振る舞うことで侵徹が進行する、みたいな感じでしょうか?
Wikipediaを見ると「固体が塑性変形を開始し流体のように振舞う領域に入る境界線となる圧力である。」とありますが*、これは少し不思議な表現です。普通、弾が装甲に侵入する段階では、どちらかが変形するためには塑性変形する必要がありますから、侵徹の過程では塑性変形により流体のように振る舞っているはずです(低速度でも塑性変形に必要な応力を流動応力、Flow stressと呼ぶことは多々あります。)

 そうすると、ユゴニオ弾性限界を特徴づける由来はもう少し別のところにある気がしてきます。


固体中の衝撃波

 ユゴニオ弾性限界の出自は固体の変形よりはむしろ衝撃波の研究にあります**。歴史的には、ユゴニオ弾性限界の出自は気体や液体について盛んに行われていた衝撃波の研究を固体についても同様に扱おうとする試みの中にあるかと思います。衝撃波の特徴として強調したいのは、以下の図に示すように圧力の変化が衝撃波の前面で不連続に起こるという点です***

図1 衝撃波の模式図

 この点を元に、固体の変形挙動から大雑把に衝撃波が生じる条件について考えてみます。以下に、通常の応力ひずみ線図を示します。以下の式に示すように固体中の音速というのは応力ひずみ線図の各部分での傾きの平方根に比例します。
\[ c \propto \sqrt{\frac{d\sigma}{d\varepsilon}} \]
 降伏応力以下ではフックの法則が成り立つため、傾きはひずみに依存せずヤング率で与えることが出来ますが、降伏応力より高い応力がかかったところでは図のように傾きが連続的に変化するため、それぞれのひずみ量がそれぞれの速度で動くことになります。そして、この図から普通に変形させた時には変形すればするほど変形した部分の移動速度は遅くなることがわかります。

図2 通常の応力ひずみ線図

というわけで、固体を普通に変形させたときには、小さなひずみ(低圧力)が先行し、その後から大きなひずみ(高圧力)が追従するため、衝撃波が発生しないことがわかります。
しかし、普通に変形させなければ話は別です。高速度衝撃で生じる様相を以下の図に示します**。

図3 高速衝撃で生じる一軸ひずみ領域

図にあるように、このような衝突では衝突目標と衝突体の界面付近に1D srain(1軸ひずみ領域)が生じますが、この一軸ひずみ領域の変形は、先程の応力ひずみ線図の場合の一軸引張/圧縮変形とは挙動が大きく異なります。圧縮することが出来る方向が一軸に決められているため、一軸ひずみ変形では軸方向の応力の他に、非常に大きな別の応力成分が生じることが雰囲気わかります。雰囲気雰囲気。なので、その応力ひずみ線図も一軸応力の応力ひずみ線図とは異なることが雰囲気察せられます。そこで、一軸ひずみの応力ひずみ線図(のようなもの)を以下の図に示します。

図4 一軸ひずみの応力ひずみ線図

この図から、大きくひずむほど傾きが大きく、つまり塑性変形の速度は塑性変形するほど大きくなることがわかります。これは期待通りの結果であり、このような変形過程では塑性変形について衝撃波(塑性変形の遷移)が生じることがわかります。この応力ひずみ線図は基本的には熱力学の要請によって決定され、この曲線はHugoniot curve、ユゴニオ曲線と呼ばれます(ユゴニオ曲線はユゴニオ曲線であって、厳密には応力ひずみ線図とは異なりますが…)****


ユゴニオ弾性限界の見積もり

そうするとユゴニオ弾性限界は衝撃波が発生する一軸ひずみ変形が生じる場合の降伏応力と読み替えることが出来るでしょう。そうすると、HEATAPFSDSの侵徹は図3のような一軸ひずみの存在が侵徹過程を通して影響を与える速度域で進行するために、ユゴニオ弾性限界が重要になってくるのかもしれません。

最後に、フックの法則を用いて一軸ひずみの降伏応力(HEL)と一軸応力の降伏応力(Yd)の関係を示して終わります。一般化フックの式で引張成分は以下で与えられますが、

\[ \sigma_{11} = \frac{ \nu E }{( 1 + \nu )( 1- 2 \nu ) }(\varepsilon_{11}+\varepsilon_{22}+\varepsilon_{33})+ \frac{E}{1+ \nu } \varepsilon_{11} \]
\[\sigma_{22} = \frac{ \nu E }{(1+\nu) 1- 2\nu}(\varepsilon_{11}+\varepsilon_{22}+\varepsilon_{33})+ \frac{E}{1+\nu}\varepsilon_{22} \]

今回は一軸ひずみを考えているので、ε11以外はゼロとなり、書き下せば以下のようになります。(一軸応力であればσ11だけが非ゼロでその他の応力はゼロになります。vはポアソン比です。
\[ \sigma_{11} = \frac{ \nu E }{( 1 + \nu )( 1- 2 \nu ) }(\varepsilon_{11})+ \frac{E}{1+ \nu } \varepsilon_{11} \]
\[\sigma_{22} = \frac{ \nu E }{(1+\nu) (1- 2\nu)}(\varepsilon_{11}) \]
この二つの応力と、塑性変形が開始する条件を主応力の差が一軸引っ張りの降伏応力と一致する時(トレスカの条件)とすると、一軸ひずみ変形の降伏条件を以下のように得ることが出来ます。
\[\sigma_{11} - \sigma_{22} = Y \]
\[ \sigma_{11}-\sigma_{22} = \frac{E}{1+\nu } \varepsilon_{11} = \frac{1-2\nu}{1-\nu}\sigma_{11}=Y \]
一軸ひずみ変形の降伏応力をHELとおくと、HELは一軸応力の降伏応力の(1-v)/(1-2v)倍となることがわかります。
\[ \mathrm{HEL} = \frac{1-\nu}{1-2\nu}Y \]
ここから、一軸応力での降伏応力がわかればHELは自然とわかり、その逆もそうなります。
まぁユゴニオ弾性限界という語句自体が意味するところはこれくらいで、ここからダイレクトに侵徹にどうこう、と持っていくのはすこし間にギャップがあるような気がします。HEATAPFSDSでよく言われる式として材料の強度を考慮に入れた修正ベルヌーイの式?がありますが、これはHELが条件というよりはむしろ、弾芯がエロージョンを起こしながら侵徹することが条件になってるような気がします。HELは超えているがエロージョンが起きないような状況は普通に起こり得て、以下の図にアルミ合金にタングステンを500 m/sで衝突させたときの応力の時間変化を計算した結果を示しますが**

図4 WプレートをAlプレートに500m/sで衝突させたときの長軸方向の圧力変化

このようなエロージョンが問題にならない場合でも応力はHELを大きく上回ることがわかります。なので、HELだけがHEATAPFSDSを特徴づけると言われるとなんだか不思議な気分になるなぁと思った話でした。

まぁ自分はこの辺全然詳しくないので間違ってたらスミマセン。

*ユゴニオ弾性限界 – Wikipedia
** PJ Hazell: Armour: Materials, Theory, and Design, (2015), CRC Press
***衝撃波 – Wikipedia
****:ユゴニオ曲線はP-V線図なのにどうなったら応力ひずみ線図になるんだ、という点は、横軸を(V0-V)/V0ln(V0/V)とすると一応応力ひずみ線図として示せるかな、と思ってます。