今回はいつも以上に覚え書きです。
また、流体で扱うベルヌーイの式を探して来られた方には合わない内容となっています。
また、流体で扱うベルヌーイの式を探して来られた方には合わない内容となっています。
高速度の侵徹(特にHEAT)を議論する時、大前提として侵徹長さは密度比で決定されるとよく言われるように思います。
これを議論する時、しばしばベルヌーイの式が出てきますが、そこからどうやったら出てくるのかがよくわからなかったので適当に式をいじってみるか、というのが今回の記事の目的です。誰かに示すための数式とかもう何年も書いたことないので読みにくいと思います。
ベルヌーイの式
自分は流体の基礎が全く無いのでまず式ありきになってしまうんですが、いわゆる一般的な材料強度を考慮したベルヌーイの式は
Y_p +\frac{1}{2} \rho_p (V-U)^2 = \frac{1}{2}\rho_t U^2 + R_t
で与えられます。左辺は弾芯が作る圧力、右辺は標的が作る圧力で、Y_pは弾芯強度、\rho_p, \rho_tは弾芯密度、標的強度、V,Uは弾芯後端速度(衝突直後は衝突速度)と侵徹速度、R_tは標的強度です。Y_p,R_tが与える影響の議論は今回は省略します。先端が速度Uで侵徹し、後端は速度Vで進行することから、弾芯が消耗する速度は以下の式で与えられます。
\frac{dl}{dt} = -(V-U)
ここで、lは弾体の長さ、tは時間です。
さて、侵徹の際、先端部のみが塑性変形をし、残部は剛体のように振る舞えば反力によって減速しますが、この際に弾芯後端が受ける応力は(完全弾塑性体であれば)、Y_pに等しいことがわかります。そこで、弾芯後端の運動方程式を
-Y_p = \rho_p l \frac{dv}{dt}
と立てます*。
これが今回使う式です。
となります。
この時、侵徹速度Uは単純に解いて
U = \frac{V}{1+\sqrt{\frac{\rho_t}{\rho_p}}}
が得られます。Y_pが0ですから、
-Y_p = \rho_p l \frac{dv}{dt}
からVは一定であり、
\frac{dl}{dt} = -(V-U)
弾芯の消耗速度は一定であることがわかります。そこで、侵徹の持続時間\tauは弾芯が消耗しきるまでの時間ですから、弾芯長さをLとして、
\tau = \frac{L}{V-U}
とするのが妥当です。 すると侵徹深さPというのは、時間\tauの間に侵徹速度Uだけ進むことと同じなので、
P =U\tau = \frac{UL}{V-U} = \frac{ \frac{VL} {1+\sqrt{\frac{\rho_t}{\rho_p} } }} {\frac{V\sqrt{\frac{\rho_t}{\rho_p}}} {1+\sqrt{ \frac{\rho_t} {\rho_p} } }} = L\sqrt{\frac{\rho_p}{\rho_t}}
が得られます。この結論は重要で、理想的には弾芯長さで規格化された侵徹深さ\frac{P}{L}は標的と侵徹体の密度の比の平方根\sqrt{\frac{\rho_p}{\rho_t}}で一定となることがわかります。
-Y_p = \rho_p l \frac{dv}{dt}
からVは一定であり、
\frac{dl}{dt} = -(V-U)
弾芯の消耗速度は一定であることがわかります。ただし、ベルヌーイの式は少し変わって
\frac{1}{2} \rho_p (V-U)^2 = \frac{1}{2}\rho_t U^2 +R_t
となります。この場合、侵徹体が強度がない一方で、標的には強度があるので、速度が一定の速度まではエロージョンを伴った侵徹を起こさない(侵徹速度U=0)ことがわかります。そこで、U=0について上式を解けば、
V = \sqrt{\frac{2R_t}{\rho_p}}
が得られ、衝突速度がこれ以上であれば侵徹が生じることがわかります。この速度を特別にV_cと置いておきます。
そこで、V_c以上の速度について、侵徹速度Uを平方完成して求めると侵徹速度Uは
(\rho_p - \rho_t)U-2\rho_p UV + \rho_p V^2 = 2R_t
(\rho_p -\rho_t) (U-\frac{\rho_p}{\rho_p- \rho_t}V)^2 - \frac{\rho_p^2 - \rho_p (\rho_p-\rho_t)}{\rho_p-\rho_t} = 2R_t
から、
U = \frac{ \rho_p V-\sqrt{ \rho_p\rho_t V^2 +2R_t(\rho_p-\rho_t)}}{ \rho_p-\rho_t}
が得られます。あるいは、\mu = \sqrt{\frac{\rho_t}{\rho_p}}とおけば、
U = \frac{1}{1-\mu^2} \Biggr(V - \mu \sqrt{ V^2 +\frac{2R_t(1-\mu^2)}{\rho_t}}\Biggl)
と整理することが出来ます。
後は先程と同様に、
\tau = \frac{L}{V-U}
から、
P =U\tau = \frac{UL}{V-U} = \frac{ L \frac{1}{1-\mu^2} \Biggr(V - \mu \sqrt{ V^2 +\frac{2R_t(1-\mu^2)}{\rho_t}}\Biggl) } { \frac{1}{1-\mu^2} \Biggr(-\mu^2 V + \mu \sqrt{ V^2 +\frac{2R_t(1-\mu^2)}{\rho_t}}\Biggl) } = L\frac{\Biggr(V - \mu \sqrt{ V^2 +\frac{2R_t(1-\mu^2)}{\rho_t}}\Biggl)}{ \Biggr(-\mu^2 V + \mu \sqrt{ V^2 +\frac{2R_t(1-\mu^2)}{\rho_t}}\Biggl)}
が得られます。
ここで重要なのは、弾芯に強度がない場合でも、一定の速度以上であれば強度のある標的を侵徹することが出来るという点です。この時、最も単純には標的にはユゴニオ弾性限界を超えた圧力がかかっていて、互いにエロージョンを起こしながら侵徹することがわかります**。
\frac{l}{L} = \Biggr( \frac{ V+\sqrt{V^2+A}}{V_0+\sqrt{V_0^2+A}}
\Biggl)^{\bigr(\frac{\rho_p \mu A}{2(1-\mu^2\ )}\ \ \ \bigl)} \exp \Biggr(
\frac{\rho_p \mu}{2Y_p(1-\mu^2)} \biggr( V\sqrt{V^2+A} - \mu V^2 - \bigr[ V_0\sqrt{V_0^2+A} - \mu V_0^2 \bigl] \biggl) \Biggl)
Y_p +\frac{1}{2} \rho_p (V-U)^2 = \frac{1}{2}\rho_t U^2 + R_t
で与えられます。左辺は弾芯が作る圧力、右辺は標的が作る圧力で、Y_pは弾芯強度、\rho_p, \rho_tは弾芯密度、標的強度、V,Uは弾芯後端速度(衝突直後は衝突速度)と侵徹速度、R_tは標的強度です。Y_p,R_tが与える影響の議論は今回は省略します。先端が速度Uで侵徹し、後端は速度Vで進行することから、弾芯が消耗する速度は以下の式で与えられます。
\frac{dl}{dt} = -(V-U)
ここで、lは弾体の長さ、tは時間です。
さて、侵徹の際、先端部のみが塑性変形をし、残部は剛体のように振る舞えば反力によって減速しますが、この際に弾芯後端が受ける応力は(完全弾塑性体であれば)、Y_pに等しいことがわかります。そこで、弾芯後端の運動方程式を
-Y_p = \rho_p l \frac{dv}{dt}
と立てます*。
これが今回使う式です。
弾芯と標的の両方に強度がないケース
一般的に解く前に、特殊な場合について考えます。Y_p=R_t=0の時、ベルヌーイの式は
\frac{1}{2} \rho_p (V-U)^2 = \frac{1}{2}\rho_t U^2 となります。
この時、侵徹速度Uは単純に解いて
U = \frac{V}{1+\sqrt{\frac{\rho_t}{\rho_p}}}
が得られます。Y_pが0ですから、
-Y_p = \rho_p l \frac{dv}{dt}
からVは一定であり、
\frac{dl}{dt} = -(V-U)
弾芯の消耗速度は一定であることがわかります。そこで、侵徹の持続時間\tauは弾芯が消耗しきるまでの時間ですから、弾芯長さをLとして、
\tau = \frac{L}{V-U}
とするのが妥当です。 すると侵徹深さPというのは、時間\tauの間に侵徹速度Uだけ進むことと同じなので、
P =U\tau = \frac{UL}{V-U} = \frac{ \frac{VL} {1+\sqrt{\frac{\rho_t}{\rho_p} } }} {\frac{V\sqrt{\frac{\rho_t}{\rho_p}}} {1+\sqrt{ \frac{\rho_t} {\rho_p} } }} = L\sqrt{\frac{\rho_p}{\rho_t}}
が得られます。この結論は重要で、理想的には弾芯長さで規格化された侵徹深さ\frac{P}{L}は標的と侵徹体の密度の比の平方根\sqrt{\frac{\rho_p}{\rho_t}}で一定となることがわかります。
弾芯に強度がないケース
弾芯に強度がない時、これは先程の例と同じようにY_pが0ですから、-Y_p = \rho_p l \frac{dv}{dt}
からVは一定であり、
\frac{dl}{dt} = -(V-U)
弾芯の消耗速度は一定であることがわかります。ただし、ベルヌーイの式は少し変わって
\frac{1}{2} \rho_p (V-U)^2 = \frac{1}{2}\rho_t U^2 +R_t
となります。この場合、侵徹体が強度がない一方で、標的には強度があるので、速度が一定の速度まではエロージョンを伴った侵徹を起こさない(侵徹速度U=0)ことがわかります。そこで、U=0について上式を解けば、
V = \sqrt{\frac{2R_t}{\rho_p}}
が得られ、衝突速度がこれ以上であれば侵徹が生じることがわかります。この速度を特別にV_cと置いておきます。
そこで、V_c以上の速度について、侵徹速度Uを平方完成して求めると侵徹速度Uは
(\rho_p - \rho_t)U-2\rho_p UV + \rho_p V^2 = 2R_t
(\rho_p -\rho_t) (U-\frac{\rho_p}{\rho_p- \rho_t}V)^2 - \frac{\rho_p^2 - \rho_p (\rho_p-\rho_t)}{\rho_p-\rho_t} = 2R_t
から、
U = \frac{ \rho_p V-\sqrt{ \rho_p\rho_t V^2 +2R_t(\rho_p-\rho_t)}}{ \rho_p-\rho_t}
が得られます。あるいは、\mu = \sqrt{\frac{\rho_t}{\rho_p}}とおけば、
U = \frac{1}{1-\mu^2} \Biggr(V - \mu \sqrt{ V^2 +\frac{2R_t(1-\mu^2)}{\rho_t}}\Biggl)
と整理することが出来ます。
後は先程と同様に、
\tau = \frac{L}{V-U}
から、
P =U\tau = \frac{UL}{V-U} = \frac{ L \frac{1}{1-\mu^2} \Biggr(V - \mu \sqrt{ V^2 +\frac{2R_t(1-\mu^2)}{\rho_t}}\Biggl) } { \frac{1}{1-\mu^2} \Biggr(-\mu^2 V + \mu \sqrt{ V^2 +\frac{2R_t(1-\mu^2)}{\rho_t}}\Biggl) } = L\frac{\Biggr(V - \mu \sqrt{ V^2 +\frac{2R_t(1-\mu^2)}{\rho_t}}\Biggl)}{ \Biggr(-\mu^2 V + \mu \sqrt{ V^2 +\frac{2R_t(1-\mu^2)}{\rho_t}}\Biggl)}
が得られます。
ここで重要なのは、弾芯に強度がない場合でも、一定の速度以上であれば強度のある標的を侵徹することが出来るという点です。この時、最も単純には標的にはユゴニオ弾性限界を超えた圧力がかかっていて、互いにエロージョンを起こしながら侵徹することがわかります**。
弾芯と標的共に強度があるケース
この場合、Y_p > R_tとY_p < R_tの場合が考えられますが、エロージョンによる侵徹を考える立場から、Y_p < R_tの場合のみを考えます。この場合、ベルヌーイの式は
Y_p +\frac{1}{2} \rho_p (V-U)^2 = \frac{1}{2}\rho_t U^2 + R_t
であたえられます。今回は先の2つの例と異なりY_p \neq 0であるため、
-Y_p = \rho l \frac{dv}{dt}
から、弾芯後端速度Vは連続的に変化することがわかります。そこで、これについて考慮しつつ考えていきます。
何はともあれ、ベルヌーイの式はVとUの関係を与えるので、ここから手を付けていくことにします。この場合、Y_pを右辺に移してしまえば後は標的にのみ強度がある場合と同じであることは明らかで、
U = \frac{1}{1-\mu^2} \Biggr(V - \mu \sqrt{ V^2 +\frac{2(R_t-Y_p)(1-\mu^2)}{\rho_t}}\Biggl)
となります。A=\frac{2(R_t-Y_p)(1-\mu^2)}{\rho_t}と置いてしまえばシンプルに、
U = \frac{1}{1-\mu^2} \Biggr(V - \mu \sqrt{ V^2 +A}\Biggl)
が得られます。これでVとUの関係がわかったので、
-Y_p = \rho_p l \frac{dv}{dt}
に
\frac{dl}{dt} = -(V-U)
から、弾芯後端速度Vは連続的に変化することがわかります。そこで、これについて考慮しつつ考えていきます。
何はともあれ、ベルヌーイの式はVとUの関係を与えるので、ここから手を付けていくことにします。この場合、Y_pを右辺に移してしまえば後は標的にのみ強度がある場合と同じであることは明らかで、
U = \frac{1}{1-\mu^2} \Biggr(V - \mu \sqrt{ V^2 +\frac{2(R_t-Y_p)(1-\mu^2)}{\rho_t}}\Biggl)
となります。A=\frac{2(R_t-Y_p)(1-\mu^2)}{\rho_t}と置いてしまえばシンプルに、
U = \frac{1}{1-\mu^2} \Biggr(V - \mu \sqrt{ V^2 +A}\Biggl)
が得られます。これでVとUの関係がわかったので、
-Y_p = \rho_p l \frac{dv}{dt}
に
\frac{dl}{dt} = -(V-U)
を突っ込んで解いてやれば解けそうな気がします。そこで素直に突っ込んでやると、
Y_p = \rho_p l (V-U) \frac{dV}{dl}
が得られるので、片々整理して
\frac{dl}{l} = \frac{\rho_p}{Y_p} (V-U) dV.
Uも顕に書けば、
\frac{dl}{l} = \frac{\rho_p}{Y_p} \Bigr( \frac{1}{1-\mu^2}\bigr(-\mu^2 V +\mu\sqrt{V^2+A} \bigl) \Bigl) dV
が得られるので、これを積分すればいいだろう、ということがわかります。左辺は残った弾体長さlについての積分で、不定積分は
I_l = \log l +C_l
V=V_0のとき、侵徹は始まっていないのでl=Lでしょう。また、任意の速度Vの時はlとしておきます。なので左辺は
左辺=\log(l/L)
になります。右辺の積分は少し手強いです。積分の範囲は衝突速度V_0から任意の速度Vまでと取ることにして、まずは不定積分をしてみます。\frac{1}{1-\mu^2}(-\mu^2 V) は簡単で、
I_0 = \frac{1}{2(1-\mu^2)}(-\mu^2 V) +C_0
です。残った\frac{1}{1-\mu^2}(\mu\sqrt{V^2+A})の積分は、このページを参考にすると
I_1 = \frac{1}{2(1-\mu^2)}\Bigr(\mu\bigr(V\sqrt{V^2+A} + A \log(V+\sqrt{V^2+A})\bigl)\Bigl) +C_1
が得られるので、これらをV_0からVまで積分すると、
右辺=\frac{\rho_p \mu}{2Y_p(1-\mu^2)}\Bigr( V\sqrt{V^2+A} + A \log(V+\sqrt{V^2+A}) - \mu V^2 -\big[ V_0\sqrt{V_0^2+A} + A \log(V_0+\sqrt{V_0^2+A}) - \mu V_0^2 \bigl] \Bigl)
が得られます。右辺と左辺をまとめてやると、
ここまでくれば侵徹深さを求めるまであと一息です。侵徹深さは先程と同じように侵徹速度Uの時間積分ですが、このままでは扱いにくいので、 -Y_p = \rho_p l \frac{dv}{dt} から、dt = -\frac{\rho_p l}{Y_p}となるので、
P = \int^t_0 u dt = -\frac{\rho_p}{Y_p} \int^0_{V_0} uldV = \frac{\rho_p}{Y_p} \int_0^{V_0} u\ l\ dV
簡潔にまとめて、
P = \frac{\rho_p}{Y_p} \int_0^{V_0} u\ l\ dV
を適当に積分することで得られます。ただ、個人的な雑感ですが、最後の積分の下端は0ではなく、エロージョンが開始する速度V_c= \sqrt{\frac{2(R_t-Y_p)}{\rho_p}} としたほうが見通しがいいかなと思います。
以上の式はAlekseevskiiとTateによって196年代後半にかけて展開されたモデルであり、非常に見通しの良い解を簡便に得ることが出来ます***。近いうちにこのモデルからわかるいくつかの簡単なことについてネタに出来たらなと思っています。
ただ、この式は侵徹の過程初期と侵徹後期では厳密なシミュレーションから外れることが知られているので、あくまでも初期のモデルの一つと理解するのがいいのかな?という感触です。侵徹深さに対する侵徹体長さの影響は明快ですが侵徹体径がどう影響するかは不明ですし、セルフシャープニングの影響を取り込むことも出来ません。わかりやすいだけに注意して取り扱うのがいいのかな、と考えています。
今回のネタを書くに当たり
Z. Rosenberg, E. Dekel, Terminal Ballistics, (2016), Springer
PJ Hazell: Armour: Materials, Theory, and Design, (2015), CRC Press
を底本にしました。
**しかしV_cより僅かに速い程度では、材料強度のR_t項の寄与が大きく、侵徹はほとんど起こらないこともこの式から明らかです。
***密度が一緒だったら発散しないの?とかいうことは考えないようにしましょう。